s**t kingzと愛しい日常たち 〜『WEEKDAY PLAYDAY』感想〜

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今回のコラムは、先日上演されたs**t kingz(以下:シッキン)の新作公演『WEEKDAY PLAYDAY』の感想です。

s**t kingz『WEEKDAY PLAYDAY』とは?

bordシッキンは、2007年10月に結成されたメンバー4人のダンスチーム。
アメリカのダンスコンテストBODY ROCKにて、2010年と2011年の2年連続優勝を成し遂げた、世界的に評価が高いチームです。
国内外問わず、さまざまなアーティストの振付やバックダンスに取り組み、日本では特に三浦大知さんとのお仕事が有名です。
公演『WEEKDAY PLAYDAY』は、2014年11月13(木)〜16日(日)に世田谷パブリックシアター にて6公演が上演されました。
シッキンの4人が缶詰工場で働いているという設定で、そこでの日常や、そこで起こる事件をダンスを交えて表現します。
チャップリンの映画みたいで、楽しくて、おしゃれで、かっこよくて、そして何だかかわいい。始まる前から終わった後まで、シッキンのこだわりをいたるところに感じる公演でした。
そして、何と言ってもシッキン4人の笑顔がとても印象的。
シッキンのショーは過去に見たことがありましたが、単独公演を見るのは今回が初めてです。
4人があまりにも人懐っこく、楽しそうな表情を観客席に向けてくるので、自分が実はずっと前からシッキンの知り合いだったんじゃないかと錯覚してしまいそうでした。

ここからは、印象に残ったところをご紹介していきます。
※以下、公演の内容に触れていますのでご注意ください。

シッキンランドへようこそ!

ワクワクする仕掛けは、シッキンがステージに出てくる前から始まります。
まず、開演前のアナウンスがすごくいい。
公演の設定に合わせて「ただいまから皆様を工場見学にお連れします」という言葉ではじまり、続く公演中の諸注意が、すべて工場見学になぞらえてアナウンスされます。
この公演は、「見る」というより「体験」なんです。
テーマパークのアトラクションに乗るみたいで、開演前から心をわしづかみにされました。

会場内は飲食禁止であることについて「精密機器が多く、ねずみが発生し、機械が故障してしまいますので」と表現します。この「ねずみ」が、ストーリーのちょっとした伏線になっていて、世界観が徹底されていると感じました。
また、前の人の視界を遮らないように、帽子をとるようアナウンスがあって珍しかったです。
ありがたい配慮だと思いました。

日常のはじまり

舞台にはメーターのついた大きな機械が置かれています。これがセットになっていて、脇にある階段から自由に上り下りができるようになっています。
この機械が食わせ者で、生産物が不足するとメーターの数値が下がり、最終的に爆発します。何と危険な職場なんでしょう!
この工場のひどいところは他にもあります。ボスは怖いし、支給される昼食は人数分ないし。
それでもシッキンの4人は、毎日陽気に働いています。
公演はそんなシッキンの日常を描くところから始まります。

舞台上にはその他に、ベルトコンベヤーが置かれていて、シッキンの4人はベルトコンベヤーに運ばれながら舞台に登場してきます。意表を突く登場の仕方です。
ベルトコンベヤーはその後も公演のダンスで活躍します。上に飛び乗ったり、ランニングマシーンのように上を歩いたり、この公演ならではのダンスが見られました。

ベルトコンベアーに限らず、この公演では、工場にあるいろんな物を使って踊ります。
工場で生産している缶や、傘や、モップなどなど。
特に印象的だったのが、KazukiさんとOguriさんが傘を持って踊る『Singin’ In The Rain』。Oguriさんがブロードウェイの俳優のように華麗でした。

シッキンが1日の勤務を終え、着替えて退社する時に、『Get Ready For The Show』が披露されます。

ずっと動画で見ていた作品なので、NOPPOさんが帽子から顔を出すシーンが生で見れて感激しました。
公演では衣装が違いますが、コート掛けに4人分の上着が掛かっていて、踊りながら上着を羽織る流れは同じ。そして帰宅の途につきます。

こうやって、日常のさまざまな物たちを、ダンスに織り混ぜながら、シッキンの日常が描かれます。
音楽とダンスが共にあるものとはよく言われることですが、シッキンの場合はそれだけじゃないんです。日常生活の中のすべてのもの。というか、地球上にあるすべてのものが、シッキンにとってダンスのパートーなんじゃないかと思えてきます。

退社後シッキンはお酒を飲み、泥酔したKazukiさんが一人舞台に取り残されます。そこからKazukiさんのソロが始まります。
このソロがかっこよくて、ソロの中で一番印象に残っています。
ある時は酔っ払いの千鳥足で、ある時はビシッと決める。二つのキャラクターを演じ分ける酔拳のようなソロ。
ソロ自体もかっこいいのですが、照明がまたかっこいいんです。雰囲気の違ういくつかの照明を、曲の流れに合わせて切り替えます。照明が変わるごとに舞台の雰囲気がガラリと変わり、演じ分けをしながら躍るソロとよくマッチしていました。

このシーンの終わり方もすてきです。
踊り終えたKazukiさんは、路上のベンチで眠ってしまいます。そこに、リーダーShojiさんが一人戻ってきて、Kazukiさんを背負い帰っていきます。優しいですよね。

ねずみ発生

開演前のアナウンスで出てきた「ねずみ」。これがストーリー上、シッキンを悩ませる存在になります。

厄介者のネズミですが、シッキンが演じるねずみは愛嬌たっぷり。
ねずみのシーンは、ねずみ姿のShojiさんが、満面の笑顔で舞台を跳び回るソロから始まります。Shojiさんの下がり気味で人の良さそうな眉毛に、動物の衣装が似合うこと似合うこと。
衣装もかわいいく、グレイのぶかっとしたタキシードで、おしりに長いしっぽがついています。上着の大きなくるみボタンが、子ども服みたいで愛らしいです。スーツがモチーフというのもシッキンらしいですね。

帽子には、ねずみの耳や鼻がついています。鼻が笛になっていて、押すと「チュウ」と音がでます。
なので、ねずみ(シッキン)同士が会話をする時は、鼻を「チュウチュウ」と鳴らします。公演中にこのシーンだけ生音が聞こえ、耳に新鮮でした。
ねずみ同士がけんかするシーンでは、この音を意外な形で使ったおもしろ演出があり、会場は笑顔になりました。

Shoot the works

ストーリーは佳境に入り、シッキンはトラブルを解決するために必死で働きます。
このシーンのダンスは、長めで動きも激しく、ソロも入っていて見応え抜群。私が思う「シッキンらしさ」がたくさん詰まっていて、ゾクゾクしながら見入りました。

もちろんいろいろな作品がありますが、私が思うシッキンらしさの一つは、細かくて揃ったダンス。
もう一つは、遠目で見てもわかる4人が並んだ時の体格差。スマートな印象の男性が4人いて、中でNOPPOさんが飛び抜けて身長が高いあの感じ。
そんな4人が立っているだけでシッキンらしさを感じ、こみ上げてくるものがあります。
さらに図形を描くように立ち位置を変えて踊る姿を見ると、より一層思います。

さて。このシーンのダンスは、お仕事をしている最中なので、4人は持ち場につき、正面を向いて並んだ状態で、位置はあまり変えず躍ります。
ですが、この並びに妙にガツンとくるものがあり、「今まさにシッキンを見ているんだ!」という実感がじわじわこみ上げて興奮しました。
二人で向かい合って躍ったり、ソロがあったりという構成のバリエーションも、連振り子みたいで、これもまた私のシッキンのつぼがグイグイ押されました。
曲の一部にビートボックスの音が入っていたのも、かっこよかったです。

エンディングに向けて

その後お話が二転三転し、ストーリーは終わり、ステージの大道具を脇によけながら1曲躍ります。
おそらくこの1曲は、ストーリーと現実の狭間の位置づけなのではと解釈しています。
そしてそのままの流れで、ブルーノ・マーズの『Locked Out of Heaven』が披露されます。ここで、ストーリーの役柄や演技とは関係ない、人間4人のシッキンがステージに表れます。
この曲は、とても情熱的な恋愛感情を歌った歌。空に向かって叫ぶ振付もあり、非常に力強く開放的。これまでのファンタジー溢れたストーリーとのギャップがあります。
そこにシッキンの生身の部分を感じて、すごくしびれました。

ここで現実に戻ったので、そのままあいさつをして終了かと思いきや、シッキンの魔法はまだ続きます。
最終的に、シッキンの勤務する工場は爆発し、シッキンはぼろぼろのすすだらけになり、エンディングを演じます。
再び幕が開くと、シッキン4人がステージに並び、音楽に合わせ、肩を揺らしています。ちょっと疲れた感じで。でも嬉しそうな笑顔で。
それを見た時、言葉にならない衝撃を受けました。
あんなにすばらしいダンスを躍って、世界大会で優勝して、単独公演のチケットも即日完売しちゃうような人たちが、お客さんに対して「どうだすごいだろ?」なんて顔を一切見せずに、職場が爆発して力なく笑ってるんです。
それくらい軽やかになりたい。

すすだらけの笑顔を向けられても、私には爆発した工場を元に戻すことはできるわけもなく、どうしようもできないので困るんですが、悪い気はしなくてむしろ楽しかった。
公演の約90分を通じて、シッキンの笑顔が自分の心にぐいぐい近づいてくるのを感じました。

公演を見る前、シッキンのダンスに「細かい」という印象を持っていました。
「細かい」にもいろいろ種類があります。繊細で壊れそうな細かさとか、緻密で機械的な細かさとか。シッキンの場合は「細やかな心遣い」の「細かさ」だと思います。
ダンスに感じたシッキンの細かさは、お客さんを楽しませるためにこれでもかというくらい仕掛けられた、公演中の仕掛けの数々に、通じるところがある気がします。
細かいといっても神経質なピリピリしたものではなく、おおらかな愛情を感じます。

ストーリーの最後に工場が爆発してしまったことで、終演後に一つお楽しみがあるのも、細やかな心遣いだと思いました。


公演全体として、とにかく見ていて幸せにな気分になりました。
その一方で、作品の背景に感じる、シッキンの後ろ暗さのないまっすぐなエネルギーに圧倒されました。

この公演のストーリーはとても平和です。シッキンが働く工場でのトラブルを描いていますが、人が死ぬわけでもなく、月100時間残業を命じられるわけでもなく、メンタルヘルスを病んで労災認定されることもありません。毎日気の合う仲間と笑顔で働きます。
想像ですがシッキンはきっと、チームメイトが大好きだし、自分の周りにいる人たちが大好きだし、仕事が大好きだし、ダンスが大好きだし、自分たちを取り巻く日常のすべてが大好きなんじゃいかと思いました。
そう考えると、いろんなつじつまが合う気がします。
だからきっとあんな平和な日常を描くことができるんでしょう。日常のいろんなものをダンスの小道具にできるんでしょう。あんなにまっすぐなエネルギーを感じるでしょう。
何かを真摯に愛している人を見るのは、とても気持ちがいいものです。

公演のストーリーは現実にはあり得ないくらい平和なお話ですが、共感できないものでは決してありません。
4人のキャラクターと折り紙付きのダンスで、舞台の世界にどんどん引き込まれて、最後にはシッキンと知り合いだったと錯覚するくらいに、心が近くなっていきます。
これは自分にとってとても不思議で、新鮮な感覚でした。

12月20日に大阪公演が上演されます。クリスマス前のすてきな時期。
アンデルセン童話「マッチ売りの少女」で、少女はマッチが燃えている時間だけ幸せを見ることができます。
シッキンがこの公演でくれる幸せは、そんな淋しいものではありません。公演が終わった後も心の中にずっと、温かい物が残ります。
多くの人に、この幸せを味わってほしいです。

DANCE@TV #36 で公演の様子が紹介されています。9:30から。

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ストリートダンスと女性アイドルの熱いファン。
サークル・KAFLY(http://kafly48.minibird.jp/)で女性アイドルのミニコミ誌を定期発行しています。今一推しのアイドルは東京パフォーマンスドールの橘二葉ちゃん。
苦手な食べ物はなすびとマンゴー。

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