人生で大切なことは全部梅棒が踊ってくれた〜『男なら、やってやれ!!』レビュー 〜

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全国青春ダンスカップ By GENERATIONS高校TV_シングル

今回のコラムは、11/20(木)〜11/23(日)に世田谷パブリックシアターで東京公演が上演された、梅棒の新作公演『男なら、やってやれ!!』の感想です。
大阪公演は12/12(金)〜12/14(日)ナレッジキャピタルナレッジシアターにて、福岡公演は2015/1/10(土)〜1/11(日)に電気ビルみらいホールにて上演されます。

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梅棒3rd STAGE『男なら、やってやれ!!』とは?

梅棒は、全員男性のエンターテインメントジャズダンスチーム。思わず気分が上がるJ-POPの名曲を使い、ドラマチックなストーリーを熱いダンスで表現します。
作品のテーマはさまざま。父と娘の愛情、冠婚葬祭、部活動などなど。日本人の人生の名場面を、日本人が歌う流行歌に乗せて踊りまくります。
受賞歴も数多く、2009年JAPAN DANCE DELIGHT vol.16 特別賞、2012年Legend Tokyo chapter.2 最優秀作品賞、オーディエンス賞など、数々の賞を受賞しています。ダンスイベントや公演に出演したり、自主公演活動を行うほか、パフォーマーとしてゆずやGReeeeNのライブツアーに出演し、幅広くエンターテインメント界で活動しています。

梅棒作品の特長の一つは、練りこまれたストーリーと演出が生み出す演劇性。
ジャズダンスに演劇というと、ミュージカルのようなものを想像するかもしれませんが、それとはまた違います。梅棒の舞台には、役者が声を出すシーンはほぼありません。
一般的なダンス公演でも、セリフ無しにストーリーを表現するものはありますが、梅棒作品のストーリーは飛び抜けて複雑です。伏線あり、笑いをとる小ネタもあります。
それでいて、観客は無理なく理解することができます。これは梅棒独自のさまざまな演出の工夫がなせる技。

例えば、一曲の中で舞台の前景と後景を使って、複数のシーンを平行して演じることで、複数の人物のバックグラウンドを短時間で説明します。ストーリーを視覚的に理解できるように、小道具の使い方も引き出しが豊富です。

今回の公演は、Legend Tokyo chapter.2 で賞を取った作品『男なら、やってやれ!!』を元に、アイドル、ヲタク、暴走族を混ぜた合わせた新しいストーリーになっています。
梅棒メンバーに加え、多数のゲストダンサーも登場します。
笑ったり、ハラハラしたり、思いっきりサイリウムを振ったりと盛りだくさん。ダンサーと一緒に観客も、公演の90分間を疾走する気分を味わえます。
※以下、一部内容に触れていますのでご注意ください。

あらすじ

ストーリーは幼少期のエピソードから始まります。
内気な少年ヤマダ(関口悠夏さん)、歌と踊りが好きなリサ(美優さん)、やんちゃなオグリ(鶴岡政希君)は仲良し3人組。
しかし、ちょっとした事件を理由にけんかします。オグリは2人と遊ぶのをやめ、暴走族「ブラッディチェリー」の一員になります。リサも家の事情で引っ越し、3人は離れ離れになってしまいます。
月日はたち、3人は高校生になります。
オグリは今でも暴走族。ヤマダはヲタクに。そしてリサはデビューを控えたアイドルグループ「ぷらちな娘。」のメンバー。
ヤマダとリサは再会し、恋のような感情が芽生えます。その影で、オグリの所属する暴走族のリーダー・ビッグマウス(伊藤今人さん)が、リサを我が物にしようと狙っていたのでした。

こんな子どもはかわいい

公演が始まってまずびっくりするのは、キッズダンサーの愛らしさ。
大人と一緒に踊って見劣りしないダンスのうまさは恐ろしいですが、オーバーな表情と動作が漫画みたいで、すごく愛くるしいんです。
遊ぶシーンでスッテンコロリンと転んじゃったり、けんかして突き飛ばされポーンと飛んでいったり。そういう演技をしても、痛々しさを感じさせず元気いっぱいに見えるのは、ダンスで鍛えた身体能力あってのもの。

面白いと思ったのは、オグリを演じた鶴岡政希君のロックダンスを使った動作。
移動するときはロックダンスのステップで動きます。友達を指差したり、柿の木を指差したりするときは、普通に指差すのではなく、ロックダンスの動き(いわゆる「ポイント」)で指さします。
これは鶴岡君の得意ジャンルを活かしたものですが、オグリのヤンチャな役柄がよく表れていて印象に残っています。

言葉のない舞台で、幼少期と成長後で役を分けるのは、すごいこと。
通常の演劇であればナレーションで説明したり、他の登場人物に役名を呼ばせて同じ役だと認識させることができますが、梅棒公演ではそれはできません。
なので、幼少期と成長後でダンサーがいかに自然に入れ替わるかや、同じ人物だとどうやって印象づけるかも、梅棒の公演の見どころの一つ。
昔の写真を見ると、時間がきらきら輝きながら巻き戻るのを感じます。それに似た輝きを子役との入れ替わりのシーンにも感じて、まだストーリーの本筋にすら入っていないのにじんわりと感動しました。

梅棒は優しい

ヤマダは櫻井竜彦さんに、オグリは塩野拓矢さんに、リサは鶴野輝一さんに役が変わり、3人は別々の人生が進みます。枝分かれしたストーリーの中で、いろんなところに梅棒作品の優しさを見つけることができます。

梅棒公演は完全な悪人が出てきません。そこに優しさ感じます。
今作では、オグリの所属する暴走族「ブラッディチェリー」は悪役ですが、どこか憎めない描かれ方をしています。なので、オグリが非行に走っても、「こいつはもうダメだ」とは思えません。
真面目に高校に通うヤマダも、暴走族になったオグリも、どちらが善でどちらが悪というわけでなく、ただお互い別々の道を進み、そこで居場所を見つけたというだけの話なんだと思います。
オグリが暴走族に加入したシーンと、ヤマダが仲間とヲタクライフを送るシーン、それぞれの選曲からもそう感じました。

一方ヤマダは、学校の物検査でヲタクだとばれ、孤立します。
これだけだと「学校というのはなんて残酷な場所なんだ!」と私は悲しくなったかもしれませんが、持ち物検査を担当した教師・ロマンス(原田康正さん)も実はヲタクで、ヤマダをヲタク仲間の一員に誘います。そこでヤマダは友人を得ます。
この展開が、意外性があって、限られた配役を活かしていて、温かくて、いいなぁと思います。
私は学生時代あまり教師と仲良くしていなかったので、ロマンスとヤマダの関係に憧れます。

梅棒作品にはハッピーエンドへのこだわりを感じます。それもわかりやくドカンと心にくるハッピー。
演劇でも映画でも小説でも、ハッピーエンドのものや、わかりやすいものを「薄っぺらい」と敬遠する人がいます。でも、後味の悪い部分を残さず、言葉なしでわかりやすくハッピーエンドに収めるために、一つ一つのシーンを緻密に作り上げているのが梅棒作品。薄っぺらいわけがありません。

あなたの近所の秋葉原

東京公演に出演していた七木奏音さんが、かつてアイドルグループ「私立恵比寿中学」(通常「エビ中」)に所属していたと、公演を見た後で知りました。
私がエビ中のライブを初めて見たのはTOKYO IDOL FESTIVAL 2010(2010年に開催されたフェス形式の女性アイドルイベント)。会場でメンバー全員の顔写真と名前が印刷されたチラシが配られ、それを見て一生懸命顔と名前を覚えようとしました。
といっても、その時すでに七木さんはエビ中を去った後。
当時アイドルとして会えなかった子が、今美しいダンサーとして目の前に現れ、華麗なバレエを踊っていたことに、不思議な感慨を感じました。

何が言いたいかというと、私はアイドルが好きだということです。
なので、この公演の始まる前から、作中に出てくるアイドル「ぷらちな娘。」にすごく興味がありました。ここからはそんな彼女たちの魅力をご紹介します。

ぷらちな娘。は、レイナ(池田遼さん)、アイ(野田裕貴さん)、リサの3人組劇場型ポップアイドル。
全員がショートヘアという珍しいビジュアル。担当カラーはそれぞれ青・黄緑・オレンジで、ピンクや赤といった王道カラーの子がいないのも興味深いところ。
ウィッグをつけて無理にロングにせず、担当カラーも男性に合いやすいさわやかな3色なので、女装のわざとらしさを感じず自然に女性アイドルとして楽しむことができました。

衣装も凝っていて推せます。白を基調とした膝上丈のドレスで、片足だけカラータイツを履いています。襟の形や布の切り替えがそれぞれ違っているので、全員型紙から違うんでしょう。駆け出しのアイドルにしては贅沢です。プロデューサーのとぅんく(梅澤裕介さん)が奮発したんですね。きっと。
男性が生足を好むからか、アイドルの衣装は足を出す物が多いです。なので、逆にスキニーやカラータイツが衣装のアイドルを見ると、媚びない感じに好感を覚えます。

東京公演ではぷらちな娘。が終演後衣装のままロビーに出てきてくれました。日によって状況は違ったと思いますが、ぷらちな娘。3人と写真が撮れて、とぅんく役の梅澤さんがカメラマンをしていた日がありました。
プロデューサーが自ら現場の第一線で写真撮影をするというのが、いかにも駆け出しのアイドルっぽくて「あるある」心をくすぐりました。

ところで、ヤマダの友人たちであるヲタク軍団の中に、ドルフィンという名前のパソコンヲタクがいます。この配役がハウスダンサーのTATSUOさん。これがすごく意外なんですけど面白いです。
光る棒を持ってヲタク軍団全員でヲタ芸をするシーンは、ダンサーなのでみなさん動きがとてもキレイ。中でもTATSUOさんは、動きの一つ一つになんとも言えないあやがあります。ヲタクファッションでヲタ芸をしていても、スターダンサーのオーラが漏れ出ていて、どきどきしました。

オグリの男気

公演のストーリーではオグリが好きでした。
このストーリーの中で、一番長く葛藤していたのは誰だと思いますか?
そう、オグリですよ。(拳を握りながら)

オグリ役の塩野さんは、演技、ダンスとも男らしくてかっこいいです。それに加え、役柄にも魅力的に感じました。

ヤマダとリサがストーリーの比較的早い段階でお互いが幼なじみだったと気づくのに対し、オグリを幼なじみだったと気づくのは、もっと後になります。
それは、オグリと2人が出会うチャンスがなかったわけではなく、出会っていたのにオグリは名乗り出られないし、2人は「ある理由」からオグリに気づけないんです。
オグリは気づいているのに、幼なじみからは気づいてもらえない。この一方通行が切ない。
そもそも幼少期のけんかは、オグリが怒るのも当然の状況でおきたもの。昔、損な思いをしたオグリが、ここでももどかしい思いをしている。胸が痛みます。
でもオグリは、昔2人が自分にしてくれなかったことを、2人にしてあげるんですよ。

私はこの公演で、オグリが殴られるシーンが一番好きです。ここでは血糊など使うわけではないのに、オグリが血を流したように見えます。痛々しく美しいシーンです。
鳥肌が立ち、「こんな表現方法があるのか」と驚きました。


人間って、変わりたいんでしょうか?
ということをたまに考えます。「今の自分から変わりたい」と思うのに、変わることが怖い気持ちや、「そのままでいいんだ」と言ってもらいたい気持ちもある。結局どうなりたいんでしょうね。

この公演のストーリーを見ていて「三つ子の魂百までだなぁ」と思いました。
ヤマダ、リサ、オグリの3人は、それぞれ子どものころから変わらない部分を持っています。
成長し、役者が変わり、交友関係やライフスタイルがそれぞれ変わりますが、ちょっとした癖だったり、行動のパターンに、変わらない部分があります。
それを見つけたときに、久し振りに会った友人が全く変わっていなかったような眩しさを感じました。変わらない部分は必ずしも長所ではなく、時に彼らを追い詰めますが、3人がストーリーの中で「そのままでいいんだよ」という愛情を受けて、のびのびと描かれているような気がしました。

変わらない部分がある一方で、「男なら、やってやれ!!」と立ち上がります。勇気を出したところでいきなりヒーローにはなれませんが、それでも「男なら、やってやれ!!」なのです。
「そのままでいいけれど、変わることができるかもしれないよ」「変わったらもっとすてきになれるかもしれないよ」そんな言葉が舞台の上から聞こえてくる気がします。

人が変わるのは難しいです。でもきっと、いつか本当に変わらなければいけないタイミングが来たら、変われるんです。変わるタイミングは、大切な人を守りたいという気持ちだったり、心強い仲間の後押しだったり、何かがきっと運んできてくれるんです。
公演を見て、強く明るい確信が頭の中に広がりました。

梅棒の公演を見ると、心の中に「人とはこうあるべきだ」「私もこうなりたい」という、まっすぐな芯のようなものが生まれます。そして明日から、自分がちょっとだけいい人になれるような気がします。
梅棒はまっすぐだから、まっすぐなものをくれるんです。

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ストリートダンスと女性アイドルの熱いファン。
サークル・KAFLY(http://kafly48.minibird.jp/)で女性アイドルのミニコミ誌を定期発行しています。今一推しのアイドルは東京パフォーマンスドールの橘二葉ちゃん。
苦手な食べ物はなすびとマンゴー。

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