人はなぜダンスを見るの?テクノロジーはあたたかく、凜として〜ELEVENPLAYダンスインスタレーション『MOSAIC Ver.1.5』レビュー〜

今回のコラムでは、2015年4月25日〜27日にスパイラルホールで上演された、ELEVENPLAYダンスインスタレーション『MOSAIC Ver.1.5』を取り上げます。

今回のコラムでは、2015年4月25日〜27日にスパイラルホールで上演された、ELEVENPLAYダンスインスタレーション『MOSAIC Ver.1.5』を取り上げます。

ELEVENPLAY『MOSAIC Ver.1.5』とは?

ELEVENPLAYは20代後半から30代の女性ダンサーで構成されたダンスカンパニー。Perfumeの振付などで有名な振付演出家・MIKIKOさんが立ち上げました。
Perfumeといえば、ライブにてRhizomatiks(ライゾマティクス 以下:ライゾマ)が手がける最先端のテクノロジー演出が有名です。ELEVENPLAYも、ライゾマのテクノロジー演出を作品に取り入れています。
ダンスとテクノロジーの前衛的な融合により、作品はメディアアートとしても高い評価を受けています。今回のように単独で公演を行うほか、国内外の芸術祭でも作品を披露しています。

今回上演された『MOSAIC Ver.1.5』は、2014年に同じスパイラルホールで上演された作品の再演です。

映像やドローンといったさまざまなテクノロジー演出と、ナース風の衣装を着た女性たちのダンス。機械的で無機質なものと、女性らしいウェットで生温かいものの、真逆の要素がホールの中で混ざり合います。
ダンスは抽象的な振り付けから曲の歌詞にしっかりとはめた振り付けまで、アプローチはさまざま。
エンターテインメント業界の第一線で活躍されている方が、こういったアート性の強い作品作りにも取り組んでいるというのは、なかなかないことでしょう。

■女性に対する視線
パンフレットによると「M・O・S・A・I・C」「Mad 気が狂った」「Odd 奇妙な」「Sensual 官能的な」「Another もうひとつの」「Immune 影響を受けない」「Cell 個室」。
この公演は「ある種の女性が内面に抱える『ドロッとした』部分」を、女性が作り、女性が踊ります。
私も女性なので、「あ、わかる!」と感じる瞬間がたくさんありました。

Scene 3「診察」では、ストレッチャーに乗ったナースが「I LIKE ME」という言葉に合わせて自分を指さし、「I HATE YOU」という言葉に合わせ相手を指さします。この動きをベースに、バリエーションを変えていきます。
途中で全身をかきむしったり、動物が敵を威嚇するようなポーズをとったり、嫌悪感をむき出しにします。

その後ナースが増え、机を囲んでミーティングが始まりますが、机に乗ったり、他のナースにのしかかったりとみんな攻撃的。女性たちが作る絵面が非常にショッキング。
「女って怖い」と他人事のように思う一方で、「私が好き」「あなたが嫌い」、虫ずが走るほどに……という感覚が、もう、すごく共感できるんです!

シチュエーションはどんどん混乱し、最後はダンサーが自分自身を指さし、「I HATE ME」という言葉で終わります。
このオチもまた、すごくわかるんですよね。
女性なら誰でも、「自分が一番」と自分を肯定する気持ちもあれば、他人と比べて「太ってる」とか「女らしくない」とか自己嫌悪する気持ちも、両方あると思うんです。そして、その気持ちは不安定でふとした瞬間に切り替わるもの。自分で自分がわからなくなって、最終的には「自分なんか大嫌いだ」と自分自身に言ってしまいたいときもあると思うんです。この作品みたいに。

Scene 6「個室」では、舞台上に並んだ5個の個室にダンサーが一人ずつ入り、個室の中で、テンポが速くビートの強い曲で踊ります。
ダンスの動きの中で、個室内でぐったりしたり、暴れたり、壁に耳をつけて隣の様子をうかがったりします。どれも周りに人がいるときには見せられない姿です。
これもまた、すごく共感できるんです。仕事が終わり家に一人でいるときの、誰にも干渉されたくない、でも他人が何してるか気になって中毒的SNSを見て、時間だけが過ぎていく不毛な感じを思います。

シーンの後半では、ダンサーが個室から出ようとし、怖がって個室に戻る動きを何度か繰り返します。中にいてもしんどい、でも外に出るのも怖い。じゃあ、私たちはどこにいたら幸せになれるのでしょうか?
最終的に、ダンサーはすべて個室の外に出て、Scene 6は終わります。
私はこのScene 6の終わる瞬間がとても好きでした。
最後まで個室から出られなかった安川香さんが、外に出ます。そして曲の最後の「シュッ」という音が消えたときに、安川さんが振り返ります。
このタイミングが絶妙なんです。音と同時でもないし、音が完全に消えてからでもない。消えてしまった音が尾を引いて聞こ続けるようで、余韻がふくらみました。

女性の描き方にリアリティを感じる一方で、作り手の頭の中をぶちまけたような主観的な生々しさがなく、リアルすぎて不快に感じることはありませんでした。客観性のさじ加減が絶妙です。
パンフレットにてMIKIKOさんが「私の仕事は人を観察する仕事だと思っています」と語っています。ひょっとしたらこの公演は、女性であるMIKIKOさん自身の経験から生まれた女性観というよりも、MIKIKOさんが女性たちを見て得た観察の結果という面が大きいのかな、ということをふと思いました。

■共存するテクノロジー演出
公演全体を通じて、女性的なものを強く打ち出しているのに、一見女性と相性のよくなさそうなテクノロジーを演出に多用しているのが、とてもおもしろいと思いました。

Scene 7「右脳」では、カメラをつけた丹羽麻由美さんの視界が、ステージの壁に映し出されます。丹羽さんは、ゆっくりと客席を眺めたり、ステージ上で踊る他のメンバーを眺めます。
ダンスを見に来たはずなのに、逆にこちらが見られるという感覚がとてもスリリング。そして怖い。

人間の目はカメラとは仕組みが違うので、カメラに写った映像は、少し冷たく遠いものに感じます。ステージの壁に映った映像を見て、(実際には違うわけですが)丹羽さんが見ている世界はこんなに冷たいのかと思うと、寂しいような、悲しいような、怖いような。
客席が冷たく感じるのはカメラのせいだと思いますが、ひょっとしたら、緊張しながら本番のステージに立つ演者にとって、観客というのは、あれくらい冷たくて遠い存在なのかもしれないと思いました。

花道に座っていた丹羽さんは、客席をぐるっと見回すと、花道を歩いてステージに進み、踊るELEVENPLAYメンバーの背後に立ちます。
すると壁に映った映像では、ダンサーの背中と正面の客席が映ります。
一観客の身分として、その光景は新鮮で、だけど、見てはいけない景色を見てしまったような気持ちもあって、とてもゾクゾクしました。

Scene 8「FLY」では、日常でなかなか見ることのないドローンが至近距離で飛んでいる驚きがあり、さらにそれがダンサーと一緒に踊っているという驚きがあります。

(↑映像は過去の公演もの)

3人のダンサーがドローンと踊った後、上の動画には無いシーンで、ドローンが照らすライトの下で踊る、沼田由花さんのソロがあります。
暗転の中、空を飛ぶドローンのライトがつくと、その下に沼田さんが立っています、しばらくするとまた暗転し、ドローンが空中を移動し、別の場所でライトをつけると、またその下に沼田さんが立っています。それがダンサーとドローンのかけあいみたいでおもしろかったです。
自由に移動ができるドローンが、真横からダンサーをライトで照らす場面もありました。すると壁にダンサーの影がキレイに映ります。固定された照明にはないおもしろさです。

この作品では曲の他にドローンの「ジー……」というモーター音が常に響いています。基本的にクリアな音が求めらるダンスにおいて、雑音が流れているのは珍しいことです。
でもモーター音が響く中でダンスを見たとき、妙に納得するものがありました。そもそも私たちの生活は、空調や冷蔵庫の音など、さまざまな雑音があって当たり前。きっとこちらの方が普通に近いんです。
パンフレットによると、このScene 8で使用された曲は、モーター音と調和する音域で作っているそうです。細部の追求に驚かされます。

ダンスとテクノロジーというのは、身体と機械なので、相反する取り合わせのように思います。
公演を見ているときは、次から次へと出てくるテクノロジーがとても不思議で驚きました。だけど私たち人間が生きていくのに、テクノロジーは常にそばにあるもの。このステージ上で起こっていたことは、不思議でも何でもなく、私たちの生きることそのものようにだんだん思えてきました。

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