ダンスがくれた美しい生きるヒント ~Memorable Moment『GIFT』レビュー~

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EXPG AUDITION

過日、Memorable Moment単独公演『GIFT』を観に行きました。
フライヤーには「—生きること—それは生かされ繋ぐこと」というコピーが書かれています。公演の随所から感じたこの「生かされている」という感覚は、私にきらきらと光る発見と感動をくれました。

Memorable Moment『GIFT』とは?
Memorable Moment(以下:MM)は、コレオグラファー・KAORIaliveさん率いる「表現系ジャズダンス」カンパニー。繊細で正確なユニゾンと、情感あふれる振付により作品は高く評価され、受賞歴も数多くあります。国内では2014年Legend Tokyo Chapter.4で最優秀作品賞と審査員賞をW受賞。また、2012年にDANCE@HERO 4th SEASONで優勝し、エンターテイメントとしての魅力も評価されています。国外では2013年VIBE DANCE CONPETITION 18で3位、2013年WORLD OF DANCE LA 2013にて3位に入賞し、BEST THEME賞を受賞しています。

この公演『GIFT』は、2013年に恵比寿Act squareにて初演が行われました。その後大阪公演があり、今回は3回目の上演となります。KAORIaliveさんが演じる一人の女性の一生をダンスで表現します。KAORIaliveさんを中心に、メンバーのほとんどが女性のこのカンパニー。衣装や演出に、女性らしいセンスを感じました。
次のシーンに移るときの間が短く、一生という長い期間を描きながらも、テンポの良さを感じる公演でした。

「かわいい!」からシリアスまで、多彩な演出
公演が始まり目に飛び込んでくるのは、カラフルな色彩のガーリーな世界。子ども時代を描く前半は、「かわいい!」の一言でした。
特に印象的だったのが、主人公の誕生日を描いたシーン。たくさんのメイドとコックが踊り、小道具として作られた大きなケーキやチキンが飛び交います。白と黒のパリッとしたモノトーンの衣装の使用人たちの中で、中央でテーブルについた主人公の黄色いワンピースと、パーティのご馳走が引き立ちます。隙の無いビジュアルです。
主人公を中心に、周りで踊る使用人たち一人一人のダンスが軽やか楽しげで、澄んだハッピーを思いっきり感じるシーンでした。

それに続く学校でのシーンもまたかわいいんです。衣装の後ろ姿にも工夫があって、生徒役のダンサーが着用しているデニムのサロペットのおしりポケットに、黄緑と青のお花がついています。これがかわいい。生徒が手に持つ大きな本の表紙は、蛍光オレンジとイエローのツートーンカラー。この色使いもまたかわいい。
学校のシーンでは、椅子を次々に動かして道を作り、その上を歩くことで冒険ごっこを表現します。正確さが求められ、チームワークが必要なシーンだと思いますが、そんなむずかしさを感じさせず、あくまで子どもの遊びのように、自然で、無邪気に、一生懸命に見えるよう、仕草などが工夫して演じられていたと感じました。

それまでに観た作品から、MMはシックで大人っぽい作風のカンパニーだと思っていました。なので、冒頭のかわいらしさは私にとって意外なものでした。しかし、この後主人公の人生が進んでいくと、だんだんシリアスな局面が顔を出してきます。いじめによる悲しみ、戦争の暴力性、死別の喪失などなど。すると、かわいらしい作風も、シックで大人っぽい作風も、それがMMなのではなく、実にさまざまなトーンの演出が使い分けることができるカンパニーだと気づかされます。多彩な絵の具で世界を描くことができるんです。その表現の幅に驚かされました。

『NO WAR』
MMといえば一番よく知られているのが、戦争をテーマにした作品『No War』でしょう。MMはこの作品でさまざまなコンテストの賞を受賞しました。規律の取れた軍隊の行進に始まって、戦況が悪くなり市民たちも戦争に巻き込まれていく悲惨な顛末を、モーツァルトのレクイエムを軸とした曲で表現します。

この公演でも、この作品が戦争のシーンにて披露されます。以前から一度生で見たかった作品なので、まず生で見られたことに感動しました。

この作品が始まると、劇場の空気が一気に変わるのを感じました。
冒頭の軍隊の行進のパートでは、一糸乱れぬ動きで隊列を保ちます。ユニゾンの評価が高いMMですが、ここで表現される行進は、ただ揃っているだけではありません。手足の動かし方の緩急やキレまで揃っています。一人一人の個人ではなく、固まりとしての人間の集団が放つ、重苦しさや不吉さが、冷たい空気となって伝わってきました。
初まりの、ビョークの『hollow』が使用されている部分は、とても機械的な印象です。ビシっとした軍服姿で一糸乱れぬ行軍を見せます。しかし、曲が進み戦況が悪くなると、人と人同士が戦う生々しさが、ビジュアルにもダンスにも浮き出てきます。軍人たちは散り散りになり、帽子を外し、髪を振り乱して踊ります。民衆が舞台上に集まり大声で叫ぶパートでは、目からも耳からも悲痛さが突き刺さり、鳥肌が立ちました。
声を出さないダンス公演において、この一カ所で全員が叫ぶというのが、とても強い衝撃を与えます。

この公演でこの作品は、空から大量の箱が落ちてきて、ぐしゃりとつぶれて終わります。「GIFT」である、たくさんの命が失われた……ということですね。

ダンス公演で、人気のある過去作品を演目の一つとして取り入れるのはよくあることですが、ストーリーの流れの中でそこだけ取って付けたような印象を受けてしまうことがしばしばあります。公演自体のテーマとその作品の世界感が微妙にずれていると感じたり、そこでその作品を披露する意義が感じられず、旧作を使い回したかったという事情を優先させたように感じたり。
しかしこの公演の『NO WAR』は、おそらく公演の中心に置くことはある程度先に決まっていたと思いますが、悪目立ちのようなものは気になりませんでした。公演が命を主題にしたものなので、大量に命が失われる戦争は外せないテーマでしょう。箱が落ちてくる演出によって、公演のタイトルである「GIFT」とのつながりも強く感じました。途中母と娘が引き離されるパートも、公演では主人公に娘がいるというストーリーの流れだったので、意味があるものとして見ることができました。作品中大声で叫ぶパートは、数分間のダンス作品よりも時間の長い公演だからこそ、より感情に訴えかけてきたように感じました。

90分の公演という形でMMの世界とメッセージを堪能でき、なおかつその中で、それぞれの作品を単独で見る時以上の感動を感じる……そんな、公演として作品を披露することの意義が強く感じられた公演だと思いました。

ダンサー・KAORIaliveさんの表現力
主人公の女性の役を子どもから大人まで踊り演じたのは、カンパニーの中心的存在であるKAORIaliveさんでした。子ども時代は元気に愛らしく演じ、年齢が上がるにつれて、佇まいや動きにどんどん落ち着きが出てきます。ダンスで年齢を的確に演じ分ける表現力には驚きました。

ダンスで印象に残ったのは、主人公の恋愛が描かれるシーンです。NAOKIさん扮する男性に交際を申し込まれ、後に二人は結婚します。二人のステップの軽やかさ、ボディタッチの柔らさや優しさ。そこには初々しさと女性らしさが合わさり、恋愛のみずみずしさがあふれていました。
時を経て公演が終盤になり、死別した夫の墓前に黄色い花を添えるシーンになるころには、主人公はもうすっかりと落ち着いた大人の女性になっています。ダンスもしっとりした動きになり、長く生きている人が持つ風格のようなものを感じました。
主人公の誕生からずっと見ていたものだから、このシーンでは「こんなに大きくなったんだ」という感慨がありました。そもそも子ども時代から同じKAORIaliveさんがずっと演じているわけですが、そんなことはすっかり忘れてしまい、本当に長い年数をかけて主人公の人生を見守ってきた気分になってしまいました。それくらいKAORIaliveさんの演じ分けは見事なものでした。

ところでこの公演の中で、ところどころ黄色いアイテムが登場します。私はそれを、幸せの象徴として解釈しています。
例えば、結婚前に主人公は、未来の夫から黄色いブーケをもらいます。ここで黄色が登場するということは、この花は彼女の人生にとってものすごく意味のある花だったんだと思います。
そして夫は他界します。前に書いたお墓のシーンで、他のダンサーは白い花を供えるのに、主人公だけは黄色い花を供えます。
そう、結婚前に夫からもらったのと同じ、黄色いブーケなんですね。
ここに、主人公が夫をどれだけ思っていたかがつまっている気がして、私の涙腺が緩んだ瞬間でもありました。

黄色いアイテムを幸せの象徴と解釈すると、主人公はいろいろな幸せを手にしています。
しかし、この公演が幸せをたくさん手に入れてハッピーエンドに向かっていく物語かというと、そうでもないんですね。主人公は最終的に独りになります。
公演の趣旨からは外れますが、それを見て漠然と思ったことがあります。長く生きる人間は、その分別れを多く経験するから、それに耐えられるように、神様が事前にたくさん幸せを与えてくれるのだろうか? そうだったらいいな、なんて祈りのようなことを考えました。

人生の終盤
人生も終盤にくると、パートナーは他界し、娘も親元を離れ、主人公は独りになります。そして、これまでのシーンの数々が、ステージ背後の壁面にシルエットとして投影されます。そこにKAORIaliveさん本人の影を合わせながら、今までの人生を振り返ります。演出がとてもおもしろかったです。
そしてこのシーンは、とても清々しいんです。最後は独りになってしまった人生ですが、今までの人生の苦しみや悲しみの重さがなく、開放感いっぱいに美しく演じているんです。
彼女の人生は、いじめや戦争や死別など、さまさまなつらい出来事を乗り越えたうえにあったと思いますが、その姿からは「生き抜いてきたんだ」という気負いがなく、足取りは羽のように非常に軽やか。そして、人生に関する深い満足を感じます。

それを見て私は、これが、フライヤーにも書かれている「生かされている」という意識なのかな、と思いました。
生かされているから、命があるだけで感謝の気持ちを持つことができるのかもしれません。生かされているから、例え毎日が自分の思い通りにならなくったって、ありのままに受け入れながら、生きていけるのかもしれません。ある種の達観ですね。
とかくストレスだらけの現代社会ですが、この「生かされている」という意識は、現代人にとって自分の心を助けるために良く効くんじゃないかなと思いました。


ストーリーのラストは、箱に入った命というギフトが、さまざまな人たちの手を渡ってくシーンで終わります。人は皆、誰かの命が関わることによってこの世に生まれてきます。そして、自分自身も、ただ生きているだけでも誰かの命に関わっているんだ、という命の繋がりを感じさせる素敵なラストシーンでした。
単に命の素晴らしさを語るだけでなく、生かされていること、繋がっていることを表現することで、自分も、自分に関わるすべての他人も愛おしく思うことができる。これは「命」というテーマに対する切り口として、とても清新に感じました。
そして、ユニゾンやチームワークを大切にするMMだからこそ、美しさをもって表現できることなんだと思いました。

この公演を終わりまで見て、「あっという間に終わった」という印象を持ちました。それは、物足りなかったという意味ではなく、ずっと集中して見続けることができたという意味です。
世の中にストリートダンス系のダンス公演がたくさん出てきた中で、特にこの『GIFT』は素晴らしかったと思います。それはダンス自体が素晴らしいということももちろんあります。さらにその上で、一貫したテーマの感じる演目選びだったり、見る人を飽きさせない多彩な演出だったり、シーンとシーンのつなぎのテンポの良さだったり、約90分の公演作りという意味での素晴らしさをとりわけ感じたからです。
次回の単独公演としては、来年6月に京都公演が決まっています。このきめ細やかな公演作りが、次回さらにどれだけ進化するのかも楽しみです。

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ストリートダンスと女性アイドルの熱いファン。
サークル・KAFLY(http://kafly48.minibird.jp/)で女性アイドルのミニコミ誌を定期発行しています。今一推しのアイドルは東京パフォーマンスドールの橘二葉ちゃん。
苦手な食べ物はなすびとマンゴー。

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