ダンスに映る未成年の価値観 ~第7回ARKSTAR公演『愛華の選択』レビュー~

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「子どものダンスが観たい」と思いました。
つまりこうです。日本のキッズダンサーのレベルが高いとはよく言われています。イベントや公演、TVなどのメディア、さまざまな場面でキッズダンサーの活躍を目にします。年齢的にキッズ(中学生以下)ではなくても、大人以上の実績をあげる未成年のダンサーもたくさんいます。
しかしバトルを除けば基本的に、大人によってプロデュースされた姿を観ることがほとんどです。大人が曲を選び、大人が振付を作り、大人が衣装を整える。大人の価値観で作られた世界の中を踊っているように感じます。

もちろんそれも作品の1つのあり方だし、子どもなので当たり前ですが、一方でこれだけ多くの若いダンサーがいるのだから、未成年の彼らの目にダンスがどのように映っているのかを知りたいという興味がありました。
もしも子どもたちがダンスを使って自分の内面を表現し、1つの公演を作るなら、どんな世界が見られるのでしょうか?
そんな興味があって観に行ったのがARKSTAR公演『愛華の選択』です。

ARKSTAR公演『愛華の選択』とは?
ARKSTARは次世代のダンサーの育成を目的としたダンスカンパニーです。メンバーの大半は未成年の子どもたちですが、その活躍ぶりは大人顔負け。大人に混ざってバトルを勝ち抜く子、振付師として活動する子、アーティストのツアーダンサーや、バックダンサーをつとめている子など。

日ごろは都内のARKSTAR Studioでさまざまなジャンルのレッスンを受け、身についた力は年に2回の基礎昇級試験で試されます。昇級制度の厳しさから「エリート集団」と称されるほど。
こう書くと厳しい管理下で詰め込み教育をされているかのような印象ですが、子どもたちの自主性を重んじる方針があり、結果さまざまな分野で活躍するダンサーを育てているのがARKSTARです。
さらに、ダンス以外にも演技や発声のレッスンも開講されているので、ダンスのスペシャリストでありながら、パフォーマーとしてのジェネラリストを目指すことができます。

そのARKSTARが定期的に開催しているのが、今回のARKSTAR公演。
以前は専門の指導者を立てて公演制作を行っていましたが、徐々に振付・演出など自分たちで手がけられる領域を広げていき、ついに今回の公演では脚本・衣装を含め、ほぼ一つの公演を自分たちで作り上げました。
ARKSTARにとっては新しい船出ともいえる公演です。

私は今回初めてARKSTAR公演に足を運びました。
当初持っていたイメージでは、一部の年長者の出番だけが多く、それ以外のメンバーは出番が少なく、通常の発表会のように一人が一つの場面にのみ出演するようなものを想像していました。
しかし実際は、見せ場や役の差はあるものの、全員が複数の作品に参加していました。オープニングでは一人一人のソロがあり、映像で名前が投影されて名前とダンサーが一致できるようになっていました。出演者はみんな生き生きとした表情で踊っていて、全員団結の舞台でした。

脚本作りへの挑戦
公演のストーリーは次のようなもの。
主人公・愛華(NATSUKA)は物事を冷めた目で見る女子高生。ある日突然の交通事故で命を失います。死後の世界で愛華の前に現れた使者(MARIN)は愛華に選択を迫ります。七日間で大切な人の涙を3つ集めて生き返るか、そのまま死ぬか……。涙を集めることを簡単だと思った愛華は、ゲームに挑むような気持ちで友人から涙を集めようとします。
映像でストーリーが進行し、幕ごとに関連するダンスが披露されます。

この公演のチャレンジの1つは脚本づくり。脚本はメンバーのKAYANEさんが手がけました。シンプルな脚本ですが、登場する愛華の友人たちの個性や、愛華に対する思いをきちんと描いています。
3人の友人から涙を集めるという作りが、話の構成をはっきりと伝わりやすいものにしていたと感じました。個性的な友人とひとりひとり対峙することで、シーンにバリエーションが生まれていたし、2人目まで順調に進むけど3人目で…と展開することで、自然と山場への感情の動きが生まれていました。

物語の中盤、涙を集める3人目の友人として、愛華は大親友であるニーナと対峙します。ここでニーナを演じるKAYANEさんの強い目つきが印象的でした。ニーナが愛華に対して強い感情を抱くのも攻撃的な言葉を投げるのも、愛華を思っているからこそ。演じているNATSUKAさんとKAYANEさんは、ARKSTARで共に長い時間を過ごしてきた2人。そんなこともあってか、このシーンにはリアルな感情のやりとりを感じました。

さまざまなジャンルのダンス
公演で披露された10作品ほどのダンスには、ヒップホップ、ジャズ、タップなどさまざまなジャンルがあり見飽きることがありませんでした。

特に印象に残ったのは、7幕「もしもサヨナラなら」で披露されるジャズを中心とした作品。親友・ニーナに見放された愛華の心がどんどん閉じてつぶれていくのを感じる切ない作品です。
衣装は青いゆったりとしたパンツに無地のトップスを合わせたもの。振付や衣装からコンテンポラリーダンスのような雰囲気を感じ、公演で披ます。ひらひらした衣装のシルエットから不安定な愛華の心を、衣装の青い色から深海のような孤独を受け取りました。

この作品の振付はKAYANEさん。今まで見たKAYANEさんの作品のイメージからレトロでかわいい作風が持ち味だと思っていましたが、こういう作品も魅力的です。

新鮮さを感じたのは5幕「すれ違い」で披露されたヒップホップとタップの作品です。振付はKEINさんとNao10さん。タップダンサーが後列、ヒップホップダンサーが前列に並び、2つのジャンルを並行して踊ります。まず「タップもできるのか!」と驚きましたし、1つの作品の中で2つのジャンルをそのままのスタイルで同居させていたのもおもしろかったです。

後日公式Twitterで知ったのですが、これは友人との心のすれ違いを、異なる2つのジャンルを踊ることによって表現しているそうです。

公演中はそんなコンセプトを知らず、ただ珍しい作品だと見とれていたのですが、後から知りそこまで考えられていたことに驚きました。

主演のNATSUKAさん
今回主役を演じたのはNATSUKAさん。どんなジャンルにも対応するダンススキルと、表現力豊かなアクティングで視線が引きつけられました。

印象的だったのが4幕「思わぬ真実」と9幕「約束の華」。NATSUKAさんの笑顔に前向きなエネルギーをもらいました。
4幕はシホ(KANU)に追いかけられることになった愛華が、タキシード姿で踊ってシホから逃げるドタバタ劇。しらを切って笑顔で踊るNATSUKAさんがとてもコミカル。観ていて楽しい気分になります。
コメディを演じるのは、若い人にとって恥ずかしくて勇気がいる場合が多いと思います。それを脚本に入れたのはきっと観客を楽しませるため。その上コメディの雰囲気を伝えながら踊りきっていたので、さすがだと思いました。

9幕「約束の華」はクライマックスとなるシーン。ひまわりの黄色がアクセントの衣装を着たダンサーに囲まれ、愛華がもう一度使者と対峙します。
ここではこの公演のモチーフになっている曲、秦基博さんの『ひまわりの約束』を、KEINさんが歌いNao10さんがギターで演奏します。生演奏ならではの音の実感と、ダンサーたちの幸せそうな表情が印象的でした。観客にひまわりをプレゼントする演出もあり、ステージで隔てられていた演者と観客の心が互いに触れあえたように感じる瞬間でした。
ここではNATSUKAさんの晴れやかな笑顔が、クライマックスにふさわしい輝きを放っていました。

これまでのシーンでは愛華は他のダンサーと異なり、制服を着て踊ります。このシーンでやっと、愛華は他のダンサーとおそろいの衣装で踊るました。

愛華が使者と向き合う場面では、背後でダンサーが祈るように手を組み、歌うように口を動かしています。その子どもたちが聖歌隊のようで、清らかで温かいクライマックスでした。
こうしてこの公演は幕を閉じます。オープニングのかっこいいダンスとは打って変わって、エンディングは楽しい雰囲気で終わります。
下がっていく幕の隙間から一生懸命手を振る姿に、演者たちの子どもらしさが垣間見られました。


ストーリーにもダンスにも若い人の感性が感じられ、みずみずしさいっぱいの公演でした。
例えば公演の冒頭で愛華は、「スマホがあればなんでもできるから」と学校に行く必要性を感じません。私が高校生のころはスマホがなかったので、このような悩みは存在していませんでした。
その後、愛華を心配した友人たちから愛華のスマホにメッセージが届くシーンがあります。ここではスマホが温かいコミュニケーションツールとして登場します。
大人の目線では子どもがスマホを持つことの悪い面にばかり目がいきがちですが、彼女たちの生活では良いも悪いもなく、スマホは生活を助ける1つの中立的なツールとして存在しているんだな、と思いました。
公演を制作した本人たちにとってはごく普通のことかもしれませんが、こういうところどころに感じる感性の違いが私には新鮮で、見つけるたびに「こういうのを観たかったんだ」と思いました。

現代はちょっと昔に比べて、何かを生み出す機会が急速に減っていると感じます。物づくりをするにしても、アプリやコピペで簡単に物を生み出した気になれてしまいます。だからこそ、若い人が1秒1秒のダンスを重ね、自分たちで90分の公演を生みだしたのは、とても可能性を感じる出来事でした。
ARKSTARが等身大の十代の姿を描いて踊るということは、大人が主導する多くのカンパニーにはできない強みです。それによって、観ている同世代の観客の心に濃い共感を生むことができると思います。それはより多くのファンを増やすための武器になるはず。
新しい試みを成功させたARKSTARのさらなる進化が楽しみです。

【公演概略】
2015年8月16日(日)
THE☆STAGE自由が丘
上演時間約90分

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ストリートダンスと女性アイドルの熱いファン。
サークル・KAFLY(http://kafly48.minibird.jp/)で女性アイドルのミニコミ誌を定期発行しています。今一推しのアイドルは東京パフォーマンスドールの橘二葉ちゃん。
苦手な食べ物はなすびとマンゴー。

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