夏の勝負は 、負けてから!〜梅棒4th PLAY『クロス ジンジャー ハリケーン』レビュー〜

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梅棒公演には「ハッピーシート」が存在することをご存じでしょうか?
通常の席より少々高額な分、非売品のノベルティがついてくる前方の席です。このような席種はさまざまな公演で独自の名前にて販売されていますが、私は梅棒公演の「ハッピーシート」という名前が好きです。
高級感や特別感を出すのではなく「ハッピー」をうたう。これがすごく梅棒らしいと思うのです。

今回のコラムでは、そんな梅棒が送る夏の舞台公演『クロス ジンジャー ハリケーン』を取り上げます。私は東京公演を観劇しました。

梅棒『クロス ジンジャー ハリケーン』とは?
梅棒は伊藤今人が主宰する、ダンス×演劇×J-POPを掲げた全員男性のエンターテイメントジャズダンスカンパニー。聞けば誰でも気分が上がるJ-POPの名曲を使い「踊りは気持だ!」をコンセプトに演じる力強いパフォーマンスからは、少年漫画のような熱血、笑い、感動が飛び出します。

ストリートダンス界では2009年JAPAN DANCE DELIGHT vol.16 特別賞、2012年Legend Tokyo chapter.2 最優秀作品賞、オーディエンス賞など受賞歴が多数。
アーティストの振付やツアー出演を行っているほか、最近ではエンタテインメントフェス「YATSUI FESTIVAL! 2015」にも出演し、新たに多くのファンを獲得しました。
メンバーはダンサー業以外にも実績多数。特に、俳優業を兼ねるメンバーが多いところが梅棒というカンパニーの特徴です。

今回の公演『クロス ジンジャー ハリケーン』は、2012年から公演を開催している彼らの4作目となる単独公演です。
物語の舞台は日本の真ん中あたりにある人口500人ほどの過疎化が進んだ離島「しょうが島」。島民にとって数少ない娯楽の一つが、DJ OH(塩野拓矢)が放送するラジオ。
ある夏、人生に疲れたOL・曽野田ゆうき(野田裕貴)が一人旅で島に訪れます。島は夏の祭りが近づいるのに、巫女をつとめる若い女性がいないというお悩みが。島民たちに懇願され、曽野田はしばらくの間巫女として島に滞在することになりました。
甲子園にいけなかった高校球児・筧将大(遠山晶司)を主人公に、島のマドンナである曽野田を巡る男たちのハリケーンを、落ち武者や未確認生命体なども巻き込みながら熱く濃く演じます。

客演無し、全員梅棒
過去の公演ではゲストを招いていた彼らが、今回4作目にして客演無しの公演に挑戦しました。
すると驚かされるのが、キャストの多彩さ。
梅棒は年齢の近い男性が集まったカンパニー。客演がなければ登場人物の幅が限られそうですが、個性的なキャラクターはどれも魅力的に演じられていました。
少年から老人まで年齢の幅はもちろん、性別の異なる女性まで。
さらに物語には、頭に矢が刺さった落ち武者スタイルの戦国武士の幽霊・宇目沢荘六(梅澤裕介)や、池の主である謎の生命体・イケビッシュ(伊藤今人、大阪公演では楢木和也)まで非現実的なキャラクターも多数登場します。どの役も存在感が抜群。現代を舞台に演じるこの公演でステージ上、12人中2人が非現実の存在なのに違和感なく群像劇を受け入れることができます。

舞台上の顔を見て、改めて「いろんな人がいるんだなぁ」と驚きました。
特に主人公である純朴な高校球児・筧と、島の地主の息子で飄々としたワル・砦一博(遠藤誠)の 2人は、背丈は似ているのに雰囲気が全く正反対で、わかりやすく対比が際立っています。
最終的に人間も、非人間も、すべての登場人物が力を合わせて勝利を掴む流れには、とても胸が熱くなりました。

作中で唯一の女性である曽野田を演じた野田裕貴さんは、梅棒作品での女性役の定番。今回も巫女服姿がとてもお似合いで、可憐でかわいらしかったです。
「男性なのにかわいい!」ではなく男性が演じているからこそ、女性では出せない軽やかさや、ベールにくるまれたような慎ましさが出るのではないかと思います。
そう思うと、メンバーに男性しかいないということは制限ではなく、独自の表現につながるものだな、と思いました。

夏だから、海で青春
ダンスで印象に残っているのは、島民が曽野田を連れて海に遊びに行くシーンと、祭りの夜に筧と曽野田が出会いを振り返るシーンです。

海のシーンではポルノグラフィティ「ミュージック・アワー」が流れます。サビの振付で上半身はクロール、下半身はランニングマンのようにステップを踏む場面があります。私はこの数秒がものすごく好きでした。
梅棒ではストーリーをダンスで説明するため、ダンスの中にアクティングとして日常の動作がよく取り入れられます。しかしここでのクロールは、説明ではなく純粋にダンスの振付として取り入れています。それがとても新鮮に感じました。既存のダンスの技でなく日常の動作を入れるアプローチや動きのキャッチーさに、アイドルの振付に似た印象を受け、それが見ていて楽しく夏の高揚感が増幅しました。

ダンス以外の点では、このシーンでは流行の「壁ドン」があるのがおもしろかったです。
壁の無い舞台真ん中で、砦が手で持ったサーフボードを壁にして、曽野田を壁ドンします。壁のない場所で壁ドン。無から有が生まれた瞬間ですよ。流行りものを取り入れる工夫とサービス精神に感動しました。
DJ OHが青い布を引いて海を作り、布の後ろで砦がサーフィンしているように体を動かす場面があり、本当に波に乗っているに見えてびっくりしました。こういう演劇的な仕掛けも梅棒ならではです。

ワクワクする海のシーンと打って変わって、祭りの夜のシーンは静かなで清らかなラブシーンです。
孤独だった少年が恋をすることで希望を見いだす姿を描く、乃木坂46『君の名は希望』の歌詞が、自分のプレイで甲子園に出場できずに落ち込んでいた筧の心境に非常にマッチしていて、相乗効果で観客の心に迫ります。眉毛をハの字にして恋の喜びを踊る筧の姿に、これ以上無いというくらいの幸福を受け取りました。

曲の山場で筧と曽野田が腰掛けている階段を、武士の幽霊・宇目沢とDJ OHがぐるぐると回します。すると観客の視点からは二人の周囲をカメラが回っているように見え、ダイナミックなカメラワークとしてシーンが心の中に広がります。とても感動的でした。

I hate you.
今回の公演のストーリーで私が驚いたのが、梅棒が憎しみを描いていることでした。
私は1st公演は観ていませんが、その後の公演では悪役たちは、物語上で利害の対立があったがために主人公を攻撃するパターンだった印象です。
今回の公演では、悪役・砦は島民たちに悪さをしますが、最初から主人公・筧にはとりわけ執着を見せます。何事も器用にこなす砦は、真面目な努力である筧が気に入りません。ストーリーの中で曽野田を巡り対決しますが、曽野田が現れる前から砦は一方的に筧を嫌っています。
要は元から砦は筧のことがウザいんです。

何かされたわけでないけれど、誰かのことがどうしようもなく「ウザい」というのは、誰だってある感情だと思います。
無視したり、やり過ごうとしたりしたいのにできない、攻撃することでしか晴らせない、自分ではどうしようもできない負の感情。

「ハッピーシート」があるように、観た人がハッピーな気分になれるのが梅棒作品の魅力。そのためには、そんな人間が誰でも持っている不合理な黒い感情は取り扱わないと思っていたので、真っ向から描いていることに驚きました。

そしてそんなやり場のない執着心を持て余す砦のことが、私は大好きです。
人口の少ない島の中に、ネガティブな感情を引き起こす無視できない人間がいるってどんな気持なんでしょう。島だから行ける場所が限られています。例えば休日はふらっとちょっと遠くの街に行き、そこで作った仲間と遊ぶ……なんてこともできず、どうしても気に入らない筧を見かけてしまうんですよ。地主の息子という立場上、将来的にも独立して島を出ることもできない可能性も考えられます。

砦は地主の息子という立場を利用し、島で自己中心的に振る舞います。いつも飄々、ニヤニヤしています。そこは悪役なのにチャーミング。
しかし時々、筧のことを遠くからじっと見ているんです。そして筧を見ている時は、笑わないんです。砦が無表情で筧を見ている時、にぎやかなしょうが島の光景にふっと影が差し、閉塞感がよぎります。この瞬間、砦に強く惹かれました。

思えば砦も筧も、ひとりぼっちであることは共通しています。
砦はよくテキ屋・野士秀喜(大村紘望)とつるんで悪さをしています。しかし野士が他の島民とつるんでいる姿をしばしば見るのに対して、砦は野士といるとき以外はほぼ一人です。
一方筧は島民との関係は良好ですが、この夏は試合中に足を怪我したこともあり行動が制限され、にぎやかな輪から一歩離れたところにいたように見えます。
砦は高校中退のある意味落ちこぼれ。筧が大会でミスをして勝利をつかめなかった高校球児。
どちらもこの夏、はみ出し者で敗者という点では共通しているのかもしれません。

そんな2人がラストではプライドをかけて対決します。大道具が動く圧巻のシーンで、私は砦が本当は勝って何を得たかったのかを想像し、砦を思って泣きました。

この島の島民がお互いをどう思っていたのかについては、想像を掻き立てられるものがあります。人口の少ない閉ざされた島なので、きっといろいろあるでしょう。
メンバーのみの公演ということもあって、人間関係の濃さがより質量を伴ったものに感じられました。


今回の公演で目新しく感じたのは、セリフをしゃべるシーンがあったことです。
今まではセリフを音声で流すことはありましたが、舞台上のダンサーがしゃべる場面はありませんでした。それが今回、前半にある本能寺の変のシーンでセリフをしゃべる演技があります。
日ごろから俳優業も行っているメンバーが多いので、セリフを伴う演技も気持ちよく見ることができます。
「上演時間110分休憩なし」とダンス公演では長時間の公演の中で、いきなり時代劇が演じられ、さらにしゃべりだすというのがスパイスとして効いています。
配役がしょうが島の人間関係とリンクしているのもよかったです。作品全体を通してかなりの悪事を働いている砦を今ひとつ憎みきれないのも、このシーンの切なさ故に「きっと砦も本当は……」と錯覚してしまうのかもしれません。

公演活動を行うストリートダンサーが増えてきたのは、ここ数年の話です。当初はストリートダンサーが公演をやること自体が、前代未聞の画期的なことと捉えられていて、公演をやる側は「ダンスだけで見せる」ということをアイデンティティにしていたように感じました。
しかしそれも一段落して新たな開拓の流れを感じます。

私にとって一つ象徴的だったのは、今年5月に開催された大規模な舞台公演『ASTERISK〜女神の光〜』でダンサーがセリフをしゃべって演技をしていたことでした。
それだけではありませんが、ダンサーがダンスだけにこだわらず、いろいろなものを取り入れながら作品作りをする期間に入っているのを今回改めて感じました。

梅棒の次回の公演は来年1月中旬。過去作品『スタンス』のリメイクと、新作との時代劇の二本立てにて開催されます。上演期間もこれまでで1番長くなり、ますます規模が大きくなる梅棒の活動が今後も楽しみです。

【公演情報】
[東京公演]
2015年8月20日(木)〜8月30日(日)
俳優座劇場
[大阪公演]
2015年9月19日(土)〜9月23日(水)
ABCホール
上演時間約110分

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ストリートダンスと女性アイドルの熱いファン。
サークル・KAFLY(http://kafly48.minibird.jp/)で女性アイドルのミニコミ誌を定期発行しています。今一推しのアイドルは東京パフォーマンスドールの橘二葉ちゃん。
苦手な食べ物はなすびとマンゴー。

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