女が女たちと生きていくために 〜Red Print vol.2『Friday Night Showdown 〜女は全てを曝けだす〜』レビュー〜

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子どもの頃は、大人は自由な存在だと思っていました。しかし実際なってみると、これがなかなか心も体も重たいもの。
長く生き、関わる人間が増えるほど、日常のさまざまな場面で衝突が起こったり、自ら何かのために戦ったり、大小たくさんの傷ができます。

自覚なく自分自身でたくさんの傷を作り、それらが化膿して取り返しのつかないことになってしまったのが、この公演の主人公・マリコの人生です。彼女は自分が負傷していることに気づかず、ただひたすら、自分の幸せと成功を考え生きています。
その姿から、一体何を学ぶことができるのでしょうか?

今回のコラムでは、昨年12月に開催されたRed Printの公演を取り上げます。

Red Print vol.2『Friday Night Showdown 〜女は全てを曝けだす〜』とは?

Red Printは、2014年に結成した、女性のみで構成されるダンスエンタテインメント集団。MIHO BROWNさん、NANAKO(OH GIRL!)さん、CRAZY SHIZUKAさんなど、ストリートダンスのさまざまな分野で活躍してきたスーパーダンサーたちが、ダンスと演劇をミックスしたコメディを演じます。
最近ではストリートダンサーも舞台公演などで、作品のつなぎにアクティングが求められることが多々あります。しかし、Red Printが演じるのは、つなぎのためではありません。彼女たちは日ごろから定期的にお芝居の稽古をしっかりと受け、作品中はセリフを使った本格的な演技をみせます。

今回の公演『Friday Night Showdown 〜女は全てを曝けだす〜』は、彼女たちの2作目の単独公演です。
舞台は、ダンスショーに定評のあるキャバレー「SHOWDOWN」。
そこで人気・実力ともにナンバーワンで、支配人から特別扱いを受けているのが主人公のマリコ(丸山恵美)です。彼女は同僚たちに傲慢な態度をとっています。
そんな彼女が、ある金曜日のショータイムの後、何者かにナイフで刺されます。
意識を失いゆくマリコの前に現れたのは、神(玉手沙織)とその従者のヤタガラス(CRAZY SHIZUKA)。神は気まぐれに、マリコが刺される前に時間を巻き戻し、やり直しができる権利をくれます。はたしてマリコは、チャンスを活かし生き延びることができるのでしょうか?
刺された原因を探るうちに、いつも一緒に踊っていた同僚のダンサーたちの秘密が、徐々に明らかになっていきます。

そんな含みのあるストーリーを、女盛りの女性たちが、自らの体を駆使しハイテンションに、エネルギッシュに演じます。
それでは、公演内容を振り返っていきましょう。

ファーストインプレッション
開演時間が近づくと、キャバレー「SHOWDOWN」の楽屋にダンサーたちが登場。自分のドレッサーについて、化粧をしたり雑談をしたりしながら開演を待ちます。
開演すると、いきなりの暗転。
再び照明がつくと、客席やステージなどさまざまなところに出演者が人形のように立っていて、ミステリアスな雰囲気の曲でオープニングのダンスが始まります。

登場の仕方といい、使われる曲といい、明るい雰囲気では始まりません。このちょっとゾクッと、それでいてねっとりと、そしてセクシーな感じが、いかにも裏のある女性たちという臭いがプンプンと漂っていてとてもいい。一筋縄でいかないストーリーが始まりそうですゾクゾクしました。

ストーリーは、楽屋でマリコが新人ダンサー・メラ(suzuyaka)を怒鳴りつけるシーンから始まります。
マリコにど突かれ、思いっきり吹っ飛ぶメラ。開始直後のこのメラの吹っ飛び具合に、私は彼女たちのこの舞台にかける本気度を、まず感じました。

このストーリーに出てくる登場人物たちは、身体能力の高さを活かしたキャラクターづけがあって、みんな非常にユニークです。
小柄な新人メラは、普段はびくびく震えていますが気持ちが高まると、ターンやジャンプなど不思議な動作が出ます。そこに新人のフレッシュさや、リスみたいな小動物感があってかわいらしいです。
神の従者であるヤタガラスは、神が持つリードに繋がれていますが、リードを忘れて自由気ままに動くためによくすっ転びます。この転びっぷりが毎回、我が身を省みないもの。
キャバレーの店長(MIHO BROWN)は、やたらランランと輝く目をしたテンションの高い人物。公演中、店長は何度も同じセリフと動きを繰り返しますが、そのテンションがまったく下がりません。これはダンスで培った強靱な体と精神があってこそ、アウトプットできるものなのではないかと思わず感じました。

美しい女性たちが体を張る姿は、ともすれば痛々しいものになりかねません。しかしこの舞台はそんな心配を寄せ付けない、強いエネルギーがあります。
また、登場人物はインナー姿のシーンもあり肌の露出が多いのですが、その姿にチープさがなく、スタイリッシュで安心できるセクシーさ。
というわけで、演じているのは日本人ですが、海外ドラマでのような雰囲気を公演に感じました。

繰り返される人生のワンシーン

このストーリーはマリコは死ぬ前の数時間を、細部を変えながら何度も繰り返します。そこには観客を飽きさせないための工夫があり、差異を比べると発見があります。
例えば、ショータイム。
店ではマリコがショータイムで踊る曲を決める役割になっています。何度も同じ時間を繰り返しているマリコは、ストーリーの展開によって曲を変えます。曲によってジャンルや振付がバラエティが富んでいるので、何度同じ時間が繰り返されても、ショータイムのダンスはどれも見応えがありました。
見るアングルも、観客目線のアングルだったりダンサーを背後から見るアングルだったり、ストーリーの流れによって異なっていて、それもまた面白かったです。

もう一つ、ストーリー上欠かせないのがマリコが殺されるシーンです。
マリコは同僚の手により、さまざまな手法で殺されます。殺された後は必ず同じ曲がかかり、今までのマリコに対する鬱憤を晴らすかのようにハイテンションで踊ります。その狂いぶりがエキセントリックの極致!
特に好きだったのが、マミ(Kie)がマリコを絞殺した後のダンス。マリコにまたがり、首に巻かれたロープを握り、車を運転するように体を動かします。それまで穏やかそうだったマミが「オラオラオラ」と言わんばかりに豹変する姿が、これ以上ないというくらい爽快でした。

頑張ってきたマリコの本音

マリコは同僚から何度も何度も殺されますが、もともとマリコは言動に一切かわいげがないので、同情の気持ちはまったくわきません。それがこのストーリーと、マリコという存在のすごいところです。
しかし物語の終盤、そんなマリコは本音を語り、同僚たちに気づかいの言葉をかけていきます。

今まで生き延びるために殺気立っていたマリコが、急に柔らかく弱々しい空気をまとい、声色もがらりと変わります。一人一人にかけていく言葉には、本当に心がこもっているよう見えました。
セリフのあるRed Printの舞台で、セリフでしか伝えられないことをマリコは伝えていきます。
そして同僚たちも、本当は自分たちが、どういう事情を影で抱えていたのかをマリコに伝えます。
登場人物たちが抱える事情のタイプがまったく違っているので、自分と何か似たものがあったという女性も多いんじゃないでしょうか。
私にはありました。

ずっと一人で生きてきて、野心的でプライドが高かったマリコが、自分の考えを変えます。そしてそのきっかけにダンスが関わっているということが、ダンサーたちが演じる舞台として、とてもいいんですよね。

このマリコと同僚のやり取りを見て思い出したのが、以前会社のコミュニケーション研修で習った「アサーティブ・コミュニケーション」(呼び名はいろいろあるようです)というもの。
相手の立場を尊重しながら、なおかつ、相手と対等に、相手を不快にさせずに自分の思っていることを伝えるコミュニケーション術のことです。
例えば研修で見た動画に、こんなシーンがありました。
ある会社の部長が、席でプライベートと思われる電話をかけています。部下たちはそれを見て、心の中で「部長仕事しろよ」「部下がやったら怒るくせに」とイライラしますが、当然直接言う者はいません。部長も、私用電話をしたことにバツの悪さを感じ、部下たちに事情説明などはせず、よそよそしく振る舞います。それではいけません。オフィスの雰囲気が悪くなってしまいます。
実は、部長にかかってきた電話は家族からで、就職活動に苦労していた娘が内定をとった報告でした。部長は私用電話をして悪いと思いながらも、娘を心配していたあまり、つい電話に出てしまったのです。
部下たちもこの事情を知っていれば、部長の行動に対してこんなにイライラしなかったことでしょう。

そこでアサーティブ・コミュニケーションです。
動画の続きで、部長はアサーティブ・コミュニケーションを応用し、部下に事情をちゃんと説明します。
勤務時間中に私用電話をしてしまったことに対して、シリアスになりすぎないよう、しかし誠実に謝罪しながらも、なぜそんな行動をとったのか、「実は…」と自分の気持ちや状況をちゃんと部下たちに説明します。そうすることで、逆に部下たちから「娘さん、おめでとうございます」とお祝いの言葉をもらえ、みんながいい気分になって動画は終わります。
職場での対人関係のストレスが問題視されている中で、注目されているスキルの一つです。

マリコが一人一人に自分の気持ちを誠意を持って説明し、それによって同僚たちも秘めたものを語り出していく姿は、まるでアサーティブ・コミュニケーションの模範解答例のよう。

ただでさえ、個性豊かな女性たちがハイテンションに動き回るのを見るだけでもスカッとストレス発散できますが、その上対処方法の手本まで見せてくれるなんて、なんていたせりつくせりなんでしょう。
まさしくこれは、悩み多き現代女性には必要な舞台だなと思いました。


Red Printという団体を知った時に、参加しているのが名だたる女性ダンサーだったため、ダンスであれだけ実績をあげながらあえて本格的な演劇を志すというところに強い興味を持ちました。
なので公演内容は、ダンスか演劇か、そのどちらかにものすごく偏ったものを想像していました。
しかし実際はどちらでもなく、かといって演劇とダンスをミックスした…というのとも少し違っていて、「人間を見せる」というまったく予想していなかった第3の道を見せられた思いでした。

もちろん披露されるダンスのレベルは非常に高いのですが、そういった彼女たちが今まで培ってきた財産に頼らず、がむしゃらに演じる凄みを感じました。
その姿を見て、どれだけ彼女たちが「表現したい」というエネルギーを持っていたのかと圧倒されます。

配られたパンフレットにあった、脚色・演出の大関真さんの言葉もとても印象的でした。
「暑苦しくて面倒臭くて愛すべき女達が『嫁に行けなくなる!』と嘆きながらも、汗と涙と涎をたらしながら必死で演じる心意気が、皆さんにとってちょっとしたクリスマスプレゼントになったら幸いです。」
公演を見た後この言葉を読むと、「稽古はまさしくこんな感じだったんだろうなぁ」というのがありありと想像できます。
Red Printの良さは、あの年のキャリアを積んだ女性たち、がむしゃらに演じていること。それはサンタクロースには絶対準備することができないクリスマスプレゼントだし、手に渡るなら、大人の女性の手に渡ってほしい。
子どもだけじゃなく、こんな大人の女性にもぴったりなクリスマスプレゼントがちゃんと存在しているなんて、東京はいい街だなぁと帰り道を歩きながら思いました。

【公演概要】
上映期間:2015/12/16(水)〜2015/12/20(日)
会場:新宿村LIVE

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ストリートダンスと女性アイドルの熱いファン。
サークル・KAFLY(http://kafly48.minibird.jp/)で女性アイドルのミニコミ誌を定期発行しています。今一推しのアイドルは東京パフォーマンスドールの橘二葉ちゃん。
苦手な食べ物はなすびとマンゴー。

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