ヒーローをください! 〜梅棒 5th WORK SIDE B『風桶』レビュー〜

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今回のコラムでは、1月に開催された梅棒の第5回公演を取り上げます。

梅棒 5th WORK SIDE B『風桶』とは?

梅棒は、結成15周年を迎える男性のみのジャズダンス エンタテインメント集団。「踊りは気持ちだ!」をコンセプトに、「演劇×ダンス」の独自のスタイルを追求。聞けば誰でも気分があがるJPOPの名曲を使ったストーリー性の高い作品は、観客の心を熱く揺さぶります。
ストリートダンスコンテスト「JAPAN DANCE DELIGHT vol.16」特別賞受賞、振付作品コンテスト「Legend Tokyo chapter.2」優勝など、世界最大規模のダンスコンテストを制した実績があり、実力は折り紙付き。振付やライブ演出などの活動のほか、パフォーマーとしても舞台やYATSUI FESTIVAL!に出演。さまざまな分野から注目されています。

今回の公演は、2012年より単独公演活動を始めた梅棒にとって5回目となる本公演。第1回公演『スタンス』を、アメリカを舞台に変え大胆にリメイクした SIDE A『OMG』と、梅棒初の時代劇SIDE B『風桶』の、まったく異なるスタイルの2本立てで上演されました。
客演としてダンサー、俳優、パントマイマーなどさまざまな分野のパフォーマーが参加し、客演陣の豊かさも梅棒の支持の厚さを物語っていました。
この公演は約2週間にわたり吉祥寺シアターで上演され、休日はもちろん、平日の昼公演まで満席という人気ぶり。吉祥寺シアターの動員記録を作ったそうです。

このコラムでは、新作であったSIDE B『風桶』を取り上げます。
舞台は江戸時代。今まで現代の日常のワンシーンを踊ってきた梅棒なので、一聞するとイロモノのように感じられるかもしれません。しかし、今までの梅棒の演出の巧みさ、高いストーリー性、歌詞にはめる手法などを、さらに一段進化させた、まさにフラッグシップとなる作品。
ここからは、ストーリーに沿って振り返っていきましょう。

ようこそ梅棒の描く江戸へ

JPOPとジャズダンスで描かれる江戸時代なんて…と思うかもしれませんが、町の活気や和気あいあいとした雰囲気が江戸のイメージにはまっていて、これがとてもしっくりきます。

おそらく理由の1つは、劇中にほぼセリフがないこと。聞き慣れない当時の言葉づかいが耳に入ってくると、例えそれがその時代の正しさだとしても「今私は時代劇を見ている」という気持ちになってしまいます。しかしセリフがないために、状況や登場人物の心境が、感覚としてすっと心の中に入ってきます。
理由の2つ目は、出演者の体。しっかり鍛えた体の方が多く、動きも機敏でダイナミック、それが私のイメージする江戸人のたくましさにフィットしていました(ということを照沼大樹さん扮する飛脚・飛丸の脚を見て思いました)。
もちろん細部のこだわりも感じましたが、大きな点でこの2つを強く感じました。

この作品は、タイムマシンを発明した2316年の未来人・吉田テスタロッサ(梅澤裕介)が、大好きな300年前のスリーピースバンド「夜桜前線」のデビューライブを見るために、2016年にタイムスリップするところから始まります。そして事故が起こり、テスタロッサと夜桜前線のメンバーは1716年の江戸時代にタイムスリップしてしまいます。
実はテスタロッサには、この時代にいる時空犯罪者である兄・べルリネッタを追跡するという任務があります。夜桜前線を無事2016年に戻すこと、時空犯罪者である兄・べルリネッタを捕まえることがこの話のミッションです。

冒頭はワクワクするシーンの連続でした。
まず、2016年にやってきたテスタロッサが夜桜前線のライブを楽しむシーン。
テスタロッサは観客に問いかけます。「ビートルズの武道館ライブを見たいと思ったことはありませんか?」と。
これに対する私の答えは「別に」です。正直タイムトラベルまでしてライブが見たいという気持ちがわかりません。しかし、続くライブシーンのダンスが、仲間に入って踊り出したくなる一体感。それに加えて、両手を広げ満面の笑みで舞台を駆け回るテスタロッサを見て、「そんなに楽しいのなら私も見てみたい!」と、あっさり意見を変えさせられました。

そして、タイムスリップしたテスタロッサと夜桜前線が江戸に到着したシーン。
彼らの前をめまぐるしく通り過ぎていく江戸の人たち。対してゆっくりとしたリアクションで、思考が追いついていない様子の夜桜前線の3人。両者の速度の違いが非常にドラマチック。これから何かが始まりそうな予感があふれ、ストーリーに引き込まれていきました。

曲と歌詞の妙

江戸の町でタイムマシンが破損し、夜桜前線はしばらく江戸に滞在することになります。彼らは三者三様の方法で江戸の町人と交流を持ち、町で必要とされる存在になっていくのでした。そしてその中で、事件が起こります。

作中で特に好きだったシーンを2曲あげると、Wink『淋しい熱帯魚』と 南こうせつ『神田川』です。
『寂しい熱帯魚』は、テスタロッサに追われている時空犯罪者の兄・ベルリネッタ(塩野拓矢)が芸者遊びをするシーンでかかります。この曲のゆらゆらした不安定な音と紫色の照明が、芸者遊びのアダルトな雰囲気と酔っ払ったベルリネッタの動きによくマッチし、艶っぽく滑稽な空気が広がります。
この曲がリリースされたのは1989年。私には当時の世情の記憶はなく、ずっと「不思議な曲だなぁ」というモヤモヤした印象を持っていましたが、このシーンと曲の一致が見事で、人生で一番スッキリとした気持ちでこの曲を聞きました。

悪役・べルリネッタはこの曲で腰を振って踊ります。その後別の曲のシーンで、ベルリネッタとともに悪事を働く江戸の荒くれ者たちも、歌詞のフレーズにはめて腰を振ります。それが1つのキャラクター付けのようで、とても魅力的。「悪が腰を振る」というのが、こんなにも妖艶で、不道徳で、かっこいいものだとは知りませんでした。

『神田川』はストーリーの重要なポイントで使われます。
江戸人たちにとって必要不可欠な存在となった夜桜前線とテスタロッサでしたが、べルリネッタ率いる悪役チームに捕らえられます。それを知った傘売りの青年・甘之丞(野田裕貴)は人一倍、夜桜前線のボーカル・松本ランボルギーニ(遠藤誠)を慕っていたこともあり、町人たちに「助けに行こう」と訴えかけます。そこでかかるのがこの曲です。
歌い出しの歌詞「貴男はもう忘れたかしら」「赤い手拭い マフラーにして」を、夜桜前線からもらったグッズの赤いマフラータオルになぞらえ、助けに行こうとしない町人たちを非難します。歌詞を拾うところは口パクでフレーズを強調。出だしのこのフレーズから1曲を通じ、歌詞とストーリーをはめるコンボを次々決めていきます。
このシーンで大げさに表情をゆがめる出演者の一人一人がユニークで、誰を見ていても面白い。そしてその中で一人真剣に訴える甘之丞。このギャップが、甘之丞のひたむきさをより際立たせます。

家族は選べなかったから

ストーリーの中ではさまざまな人間模様が描かれますが、私の心に一番焼き付いているのが、2316年の未来人の兄妹、弟・吉田テスタロッサと時空犯罪者である兄・吉田ベルリネッタの関係です。
タイムマシンを発明した天才の弟・テスタロッサは、いつも笑っている明るいキャラクター。彼は冒頭で、兄を追いかける任務は建前であり、自分の趣味として夜桜前線のデビューライブを見るために2016年にタイムスリップしたことを明かします。脳天気さ、無責任さも感じる発言ですが、笑顔に愛嬌があり、憎めません。

そんなテスタロッサは物語の終盤、追っていた兄・ベルリネッタと対峙することとなります。そして迅速に、覚悟を伴った行動に出ます。
そう、迷いや影を感じさせず、とても迅速に。
その姿を見て、この家族の関係は「話せばわかる」という心の段階を、もうとっくに過ぎてしまったのかもしれないと思いました。
それでも犯罪者の兄を責任を持って追い続け、兄と一緒に生きていく決心をしているテスタロッサ。2016年の私から見ても、とてもまっすぐで泥臭い未来人です。

それを踏まえた上で、冒頭の2016年夜桜前線のライブシーンを思い出すと、テスタロッサにまた違った感情が沸いてきます。
「任務は建前」なんて言っていましたが、ライブの直後兄のいる江戸時代に行くためにタイムマシンをセットしていたと考えると、彼なりの覚悟があって、あのタイミングでどうしてもライブを見に行きたかったんじゃないかと思うんですよね。
ライブ会場で楽しそうにしているテスタロッサを思い出すと、その姿が楽しそうであればあるほどに、それが切なさとなって私の胸に返ってきます。
テスタロッサの覚悟や家族に対する思いが、いつか報われる未来が存在すること。そしてそこに彼がたどり着けることを祈ります。


梅棒というのは、作品にJPOPを使うことにこだわっていて、他のダンスカンパニーとは異なるタイプの音楽へのこだわりや愛を感じます。
そんな梅棒が今回の作品で描いたのは、夜桜前線というミュージシャンが、時代を超えて、音楽・人柄とも支持されるヒーローである世界でした。それが音楽への思いを二重に重ねているようで、見ていてとても心がほくほくしました。

この公演で描かれる江戸は1716年と時代がはっきりしていますが、かといって歴史的な事件が起こったり、歴史上の有名な人物が登場するわけではありません。登場するのは歴史に名を残さない町人たちです。
町にチンピラ程度はいますが、いつもと変わらない、平和だけどちょっと刺激が足りないかもしれない日常を送る町人たちのところへ、未来人がやってきます。そして恋のきっかけが生まれたり、悪かった体調が回復したり、事件が起きてみんなが1つになったり。夜桜前線は彼らの生活に彩りを与え慕われる存在、ヒーローになりました。
そこに私は強い憧れを感じます。

例えば小説なんかで、何でも願いを叶えてくれる神様が現れ…なんて話がありますが、ああいうのを読むたびに「私だったら何を願うだろう?」と考えます。
まじめに考えると、不用意に大金を手にすればトラブルに巻き込まれそうだし、かといって幸い衣食住はおおむね足りている。欲しい物はもちろんありますが、自分で働いたお金でいつか手に入れたい。そうすると、特に願いたいものなんてないんですね。
だったらこの日常の、何か足りない感じは一体何なのか?
きっと熱狂できる存在がほしいんです。
別に特別なものをくれなくていいし、人智を越えた力もなくていい。万能の神様なんてはいらないので、ただ憧れられるヒーローがほしい。
そういう存在がいたならば、例え自分の暮らしが何も変わらなくても、何でもがんばれそうな気がするんです。

公演期間中、梅棒が作り・踊る舞台は私にとってヒーローそのものでした。しかし未来に帰った夜桜前線のように、公演期間を終わり舞台は消えてしまいました。
でも大丈夫。梅棒は現代を生きる生身の人間。また別のヒーローを連れて、私たちの目の前に現れます。次回の公演は10月に東京グローブ座での開催が決定しています。

この作品で梅棒は、時代劇という新たな分野を開拓しました。そして、同時上演の『OMG』では、ずっとJPOPを使ってきた梅棒が洋楽を使うというチャレンジがありました。チャレンジするということは、未来への種をまくということ。きっと次回もまた、新しい境地を見せてくれることでしょう。

【講演概要】
公演日程 :2016年1月16日(土)〜31日(日)
会場:吉祥寺シアター
上演時間約90分

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ストリートダンスと女性アイドルの熱いファン。
サークル・KAFLY(http://kafly48.minibird.jp/)で女性アイドルのミニコミ誌を定期発行しています。今一推しのアイドルは東京パフォーマンスドールの橘二葉ちゃん。
苦手な食べ物はなすびとマンゴー。

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