振付師の思考法【ASUKA Yazawa 】都立狛江高校ダンス部2023 年作品をセルフ解説

振付師のリアルな制作意図を解説する「振付師の思考法」
4回目は、高度な作品力で毎年全国入賞を獲得する、都立狛江高校の作品「緑庭(Green Garden)。

コンテスト作品らしからぬ風通しの良い芸術性で、本年度の大会で際立った存在感を放った。

こだわりの詰まった作品をセルフ解説してもらおう!



解説者/振付師
ASUKA Yazawa
プロダンサー/都立狛江高校コーチ

>>オフィシャルHP
>>Instagram


解説する作品
東京都立狛江高校学校2023年
2年生ビッグクラス作品
緑庭(グリーンガーデン)
・ハイダン EAST vol.3 【準優勝】
・高校ストリートダンスグランプリ2 023 【準優勝】
・ダンススタジアム新人戦2023 年東日本大会ビッグクラス【優勝】
・DCC2023 年【C hiyoda 賞】



参考動画




制作のいきさつ
かつて狛江高校では、1年秋から2年秋までの大会作品は私が担当し、2年秋から3年夏までの大会作品は相方のTOMOKOが制作する流れでした。
>>TOMOKOの作品解説記事(2022年)
しかし、もう1人のコーチである蒼依(写真)にも「大会作品に関わってもらおう」という話になり、私1人で担当していた大会作品を、3年前から蒼依と共作するようになりました。

私が主にプロデュース・ディレクションをし、そこに沿って、内容や振付を2人で創作しています。
今回の「緑庭(グリーンガーデン)」も、蒼依との共作です。

いつも振り入れ開始3か月前頃から、どんなものを作るか目途をつけ始めますが、実は今回、その内容にしっくり来ないまま、振り入れ2日前になってしまいました…
とても焦りましたが(笑)、蒼依との最終打ち合わせの1時間前、ようやく出会えたのが「Green Garden」という楽曲でした。

そこからの制作はスムーズでした。音楽の雰囲気や歌詞、MVにもイメージをたくさんもらい、「夢と現実の狭間」を表現することに。
楽曲から得たインスピレーションが多いので、タイトルもそのまま楽曲からいただきました。

今まで以上に、かなり感覚的に創造した世界です。
そのため部員のみんなにも多くは語らず、同じ世界観を共有できるように、かなり曖昧な表現で伝えています。
でも、それを部員みんながたくさんかみ砕いてくれたお陰で、たくさんの賞をいただいているのだと思います。


使用楽曲
Laura Mvula / Green Garden

パートごとの解説

0:22~0 :28
★オープニング
この作品のテーマは、「夢と現実の狭間にある緑庭」。
そのため、はっきりとしたわかりやすい作品の始まりではなく、徐々に世界観に吸い込まれていく導入を目指し、演出としては静かめにスタート。
特別踊りで何かを魅せるよりも、印象的なイントロに頼りました。


0:29~0 :46
★本編スタート
本でいう「物語が始まる」のは、この部分。
参考動画では、物語の始まりがわかりづらかったので、今では各パートの動き出しを完全に揃えて、その 「本が開く瞬間」にフォーカスできるよう修正しています。
このパートでは、同じ空間にいるのに時空が歪んでいる雰囲気を出したかったため、4種類の振り付けのタイプが混在しています。

木のそばで踊る「スロー」の人たち、緑の布で仕切られた「モヤのかかった」人たち、何にも影響されず「クラップで通り過ぎる」人たち、そして1番「普通に踊る」人。

現実世界から離れているような空気を出すため、1番普通に踊る人がアウェイな状態を作り出しています。そして、観客と唯一繋がれるストーリーテラー的存在に。


0:47~0 :55
★盛り上がりへの加速
このあたりから、ようやく複数人数によるユニゾンダンスが始まっていきます。
サビに向かって気持ちが高揚していく感覚を伝えるため、人数も構成も振付も、段階を踏んで盛り上がりを作れるように意識しました。
クラップは特に、お客さんを巻き込めるようなクレシェンドを。
上手後ろから始まるメンバーの熱が周りの演者に伝わり、演者のテンションがドンドン前に迫っていく…ある意味で、威圧感をお客さんに与えられたら、と思っています。


0:56~1:13
★サビ
このサビで演者の意識は、「自分たちの世界」から「外で見ている人たち」へフォーカスが変わっていきます
全員で前を向いて伸びやかに踊って魅せる、という構成に転換。
ここの振付はすべて、蒼依が担当。
長めのスカートを持ったり、なびかせたり、そして赤いパンプスを見せるような振付をしたり、と衣装の特徴を生かしてくれました。


1:14~1:31
★スピード展開
音楽のスピード感に合わせ、振付も構成も疾走感を意識。
今まで緩やかに進んでいたので、ここで次々とお客さんの視点を変えられるように構成しました。
ワイド→タイト→下手からのセンター→上手というように。


1:32~1:40
★リリース展開
緊張感ある派手演出のあとは、それをほどくイメージで。
上手前に出てきた子の勢いある風を受けたキッカケで、場面は緩やかに展開し、終盤には次のフェーズを示唆するように、リフトが上がっていきます。


1:41~1:58
★空間展開
作品の中で1 番大きく空間が展開していくシーン。
ここまでずっと、あえて観客と演者を区切っていましたが、その布を取っ払い、パフォーマンスエリアをも広げます
1つ前に上げたリフトは、限られたスペースから抜け出していくこの流れを意識していました。
また、散りばめられていた木は中心に集まり、生い茂る1 本の木になるイメージで、そこへ布をかけていきます。


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