第一生命 D.LEAGUE 23-24 ROUND.5!FULLCAST RAISERZ、KOSÉ 8ROCKSの進化を見せつけた勝利。MVDはKTR、KDは首位に並ぶ。

世界最高峰のプロダンスリーグ「第一生命 D.LEAGUE 23-24」(以下D.LEAGUE) のROUND.5が2023年12月28日、東京ガーデンシアターにて行われた。どのチームも戦略の域を超えた渾身の作品をぶつけ合った結果、4MATCHがDRAWとなり、今回NO MATCHであるCyberAgent Legit と共にKADOKAWA DREAMSがCSランキング首位に並んだ。FULLCAST RAISERZはSPダンサーの起用により開幕戦ぶりの勝利を手にし、KTRはMVDとなった。結果は以下。

1st Match : Benefit one MONOLIZ VS Valuence INFINITIES (3-3)
2nd Match : dip BATTLES VS FULLCAST RAISERZ (1-5)
3rd Match : SEPTENI RAPTURES VS avex ROYALBRATS (3-3)
4th Match : LIFULL ALT-RHYTHM VS KOSÉ 8ROCKS (2-4)
5th Match : KADOKAWA DREAMS VS DYM MESSENGERS (3-3)
6th Match : Medical Concierge I’moon VS SEGA SAMMY LUX (3-3)

奇跡の采配、破壊の女王SHIMIZU MASHと起こした創造的破壊

2nd Matchで行われたdip BATTLES VS FULLCAST RAISERZ の対戦カードでFULLCAST RAISERZ はSPダンサーSHIMIZU MASHを起用した。

VOGUEやジャズを武器に世界観を創り出すのが得意で、ダンサーの域を超えクリエイターとして注目されているダンサーだ。

dip BATTLES は「7PAINS」をテーマに、今シーズン初、KENSEIなしでのメンバー構成で挑む。

赤い衣装のMARINとゾンビのような青白いメイクと衣装で登場したダンサー達が痛みのシンボルとなり、多様な解釈が可能な世界観を展開していく。

痛みが身体を掴み、逃れようともがくも、痛み達は暴走し、MARINは孤立してしまう。そしてノイズ音をきっかけに、痛みと共に歩み始め、痛みは徐々にコントロールされていく。

リリカルなジャズを用いた静かな雰囲気の作品にも関わらず、BATTLESらしいグロテスクさや、中空ドルフィンなど細やかで高度なテクニックもしっかりと埋め込まれた作品だ。

最後は痛みに飲み込まれてしまうが、痛み達との関係性の変化こそ進化、と自分たちのストーリーを作品で表現した。

対するFULLCAST RAISERZは「BEAUTY JUDGEMENT」がテーマ。メンバーが衣装の一部として花開く斬新な始まり、セリフとEDMのビートを巧みに使い、ジャズ、VOGUEにインスパイアされた振り付けとKRUMPは見事な化学反応を見せる。

銃声に合わせた変則的な体勢からのフロア、鐘の音に合わせたアクロバット。曲が止まり踊り終わったかと思えば、振り返って一列に並び追い込みを見せるかなりの挑戦的な構成。最後にSHIMIZU MASHの生の笑い声が会場に響き渡り、強烈な印象を残した。

NO PAIN NO GAINを掲げるRAISERZに対し、PAINをテーマにした作品で対抗したBATTLESだったが、1-5でRAISERZの勝利となった。BATTLESの次なるGAINにも期待したいところだ。

今回のSPダンサーの起用はオフシーズンからKTRの構想にあったという。SHIMIZU MASHがKRUMPERと仕事をやりたいと思った3日後に連絡が来たという奇跡的な巡り合わせで実現した。

試合後のインタビューでINFINITY TWIGGZは「自分の世界観を押し付けるのでなくKRUMPの良さを理解し、RAISERZとやる意味を考えてくれる方だった。ダンスの幅の広さだけでなく心の広さがRAISERZとマッチした。」

KTRも、MVDを自分がもらっていいのか悩むくらいSHIMIZU MASHやメンバーに感謝している、と語っていた。

何度も見て調べてサンプリングを探す楽しみ

ROUND5でもう一つ勝敗がついたのが4th MatchのLIFULL ALT-RHYTHM VS KOSÉ 8ROCKS だ。

「忘年会」をテーマに、ダブステップのような重い音楽にもかからず明るく新橋で飲み明かすサラリーマンを表現するALT-RHYTHM。

豪快なアクロバットなど見どころはしっかり用意しつつ、ダンスの密度を凝縮し、キャラクターの面白さやアクティングが伝わるよう力を入れていた。

とにかくわかりやすくハッピーに、千手観音やGOと浜田純平のキャラの強さを活かした演出、終電のアナウンスからのオチまでの流れと、持ち味であるステージングの強みをしっかりと見せつけた。

そして「SAMPLING METHOD」をテーマに、他のチームの強みを分析し取り入れ、ダンスだけでなく照明や構成にまでこだわったという8ROCKS。

このチームだからこそできるブレイキンのかっこよさに、照明による表現を取り入れた相乗効果は予想のはるか上であった。スポットライトを点灯、暗転させることにより、ストーリー性が生まれる。

繰り返しフィーチャーされるYU-KIのパワームーブは、スローなもの、高速スピン、その場バク転など高度なものばかりだ。

今シーズン初登場のNaoもエグい角度のアローバックを決め爪痕を残した。ショーの最後に、冒頭と同じムーブを持ってくるという演出も粋だ。

サンプリングとは、過去の名作を取り入れ自分たちなりにアレンジするというHIPHOPの文化だ。JAZZの特徴的な部分を切り出しループさせたり、ラップの名フレーズを引用するなど、元々は音楽的な技法だが、ダンスも同様にサンプリングを繰り返し進化してきた歴史がある。

例えば今回のDYM MESSENGERSの「taketetar」は、ディレクターのTAKUYAと親交のあるチームの作品をサンプリングした作品と考えられる。

サンプリングは、過去の作品のテクニックを引用しアレンジするという表層だけでなく、過去の作品のメッセージや美学に自分たちのメッセージを上乗せすることができる。

また、LUXはブルーエイリアンをテーマに、ブルーマンを彷彿とさせるメイクでパフォーマンスを展開したが、風船によるパントマイムやスタチューイングなど、大道芸の要素をまさにサンプリングして昇華し続けている。

8ROCKSをはじめ、どのチームの作品も、何度も見返して、どの場面が何をサンプリングしたものかを考察し、見つけたらSNSでぜひ発信してほしい。

2024年は次なるチャレンジへ

従来のダンスの世界は、尊敬するダンサーや好きなダンサーがいても、ショーに足を運ぶか、レッスンに足を運ぶくらいしか応援の手段がなかった。ビジネスマインドの高いダンサーやコレオグラフなどで成功している一部のダンサーを除き、不安定な仕事であることが多かった。

しかしD.LEAGUEの年俸制という仕組みはダンサーの収入を安定させ、次なる挑戦への余裕を生み出す。グッズの購入や会場へ足を運ぶなど、応援の選択肢もどんどん増えていく。ダンサーのキャリアの多様性、選択肢を一気に広げてくれた。

そうしてこの数年、Dリーガーの中からインフルエンサーが多数登場した。また、D.LEAGUEは他のスポーツには見られない、オーディエンス票制度も取り入れられ試合結果に大きな影響力を持つ。DRAWの試合を動かすのはオーディエンス票だ。ROUND以外でも、どんな発信をするかが勝敗を分ける鍵となる。I’moonが今回3度目のDRAWとなったがどのチームもオーディエンス票が動いていたら、結果がCSランキングは大きく動いていただろう。

日本語では「巨人の肩の上」という言葉がある。先人たちの成果や研究を知ることで、さらに新しい発見や創造ができるというものだ。まさにサンプリングの精神を表す言葉であり、大事なのはその先人たちへのリスペクトなのはいうまでもない。

2023年はダンスの神様、坂見誠二氏の逝去という悲しい出来事もあった。そうした先人たちの築いた礎の上にD.LEAGUEは成り立っている。坂見誠二氏をはじめとした巨人達の肩の上に乗ることで、新たな作品やダンス体験に触れられることに改めて感謝とリスペクトを贈るとともに、2024年はD.LEAGUEからどんな新しいムーブメントが起きるのか、期待したい。

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