第一生命 D.LEAGUE 23-24 ROUND.6!KDが今シーズン3回目のスウィープで首位独走!MVDはKohsuke Hattori!
KDはチームのエース、颯希(SATSUKI)がアクロバット以外を解禁され昨シーズンに負った足の怪我がほぼ完治。今回はその颯希(SATSUKI)を中心にオモチャ箱をテーマにした作品を展開する。
真夜中にオルゴール人形が暴れ出したといった風情で、KDが武器とするマイム(表情や演技)とスローモーションの精度に、アクロバットの得意なTSYとSPダンサーRintaが華を添える。会場は何度も歓声が上がり、特に、バク宙を押してスライドさせる技については「特殊な訓練を行っています」のテロップが必要なほど難易度の高い組み技だが、見事に成功させた。
照明や衣装にもこだわり、昭和のリカちゃん人形のような適度なビビッドさと、小刻みなストップを行うティッキングや操り人形を模したパペットとのギャップも、儚くグロテスクな世界観に効果的な演出であった。
一方のALT-RHYTHMは事前にSNSでの#アルトリラブレターにて「宇宙一いい戦いにしたい」と予告した通り、宇宙遊泳をテーマに、宇宙服と黒子マスクで顔を隠しての登場。入場から無重力感を再現し、チーム紹介やカウントダウンの裏でも低重力世界を表現するように板付きに向かうという演出は斬新だ。
映画のような音楽と共に宙に浮く漂流シーンから始まる。黒子が人工衛星やスペースデブリ(宇宙ごみ)を表現し、レーザー照明を意図的に使った演出は多分D.LEAGUEでは初めてではないだろうか。
昨シーズンまで所属していた井田 亜彩実がSPダンサーとして主演。スローながら難易度の高いリフトを冒頭から2分以上行う貫通力のある作品はジャッジの頭を悩ませる。昨シーズンのROUND.3でSPダンサーにAichiを起用し、冒頭から最後までヘッドスピンをさせた作品”LOOP”のコンセプトを彷彿とさせる構成で、ALT-RHYTHMの一番得意な領域、ダンスを超えたアート作品としては非常に評価が高いのではないだろうか。
世界観を壊さないよう、スローで衣装の擦れる音すら立てず、黒子の動きを再現することは非常に難易度が高い最後に地表についたことにより、宇宙遊泳だったのか、精神世界だったのかという考察が逆に生まれるという後味の作り方も見事であった。
結果としてはKDのスウィープ勝利となったが、ALT-RHYTHMの敗因はD .LEAGUEの「評価の5項目」からはみ出すぎた、にほかならない。試合後のインタビューで颯希(SATSUKI)は昨シーズンCSで対戦した際、KDが出した作品「スペーストラベラーズ」に対抗して、ALT-RHYTHMが宇宙をテーマにした作品をぶつけてくれたことに感謝を述べた。
記録を残したKD、記憶に残したALT-RHYTHMと呼べる名勝負であり、今後ここから他チームに広がるインスピレーションは計り知れない。
What’s your strengrh
自分たちの強みを作品としてではなくストレートに出したチームが本ラウンドでは勝利した印象だ。FULLCAST RAISERZはSEGA SAMMY LUXとの対戦で、「WE ARE。」というテーマでどストレートなKRUMPで勝負をかけてきた。
LUXを意識してか、前半はスタイリッシュに、ストンプパートからは会場と共にクラップすることでオーディエンスを巻き込みボルテージをあげる。ストンプは体から発する音で踊るスタイルの事でRAIERZは度々作品に取り入れてきた。
そしてINFINITY TWIGGZの高圧力を放つソロからソロ回しが始まり、後半のルーティンはしっかり前ROUNDまで大事にしてきたギターなどの音を組み込んだ楽曲で挑んでいた、まさに前半戦の集大成といった高火力な作品であった。
実はこの勝利の裏には、リハーサルで着地を失敗し、膝の怪我によるメンバーを交代というアクシデントがあった。RAISERZはメンバーが10名と限られたリソースの中で活動している中、こうしたアクシデントに備え全員が振り付けを覚えていたため、無事にステージで勝利を収めることができたという。
また「dip BATTLESは体の使い方がエグいダンサーがたくさんいるチーム。その対極にある作品を作った」というavex ROYALBRATSも、コレオグラフというジャンルならではのストレートなダンスで勝負。アーティストのライブのダンスパートを切り取ったようなステージングと照明、クリック音のみのほぼ無音ダンスは、惹きつける個のテクニックとチームとしてのシンクロ力をしっかり持っていないとできない構成だ。作戦が功を奏したか、aRBは勝利し、Kohsuke HattoriはMVDとなった。
HIPHOPの世界には「BACK TO OLD SCHOOL」というフレーズがある。日本語に直すなら原点回帰だが、歴史を知り、そこから生まれた美学を学ぶ、という意味も含まれる。
シーズンを通して進化のために、自分たちの強みから離れて新たに挑戦するラウンドも必要であり、ここぞというラウンドで原点回帰し、自分たちの強みを爆発させる。ファンとしてその試行錯誤の過程や通過点を見守ることは、勝敗以上の醍醐味があるはずだ。
今シーズン、それを作品として用意し続けるKOSÉ 8ROCKSのようなチームもあり、ダンスファンたちがさらにダンスを楽しむ観点を増やすことに、多大な貢献をしているのではないだろうか。
マドルスルー、そしてサイファーラウンドへ
今回勝利したDYM MESSENGERSなどは、まさにそんな自分たちの強み、個の強みに重きを置いて切磋琢磨を続けているチームだ。そしてその個の強さが勝敗に大きく関わってくるのが次回、ROUND.7、各チーム代表のダンサーがステージに立ち競い合うサイファーラウンドだ。
バトルカルチャーをベースに進化してきたダンスを中心に置くチームは、流れを引き寄せる大きなチャンスでもある。一方、作品性を重んじるチームの中にもバトルで功績を残すダンサーは多数在籍するため、勝敗は一筋縄では決まらない。
ビジネスの世界ではマドルスルーという言葉がある。正解がわかった上で努力し困難を突破するブレイクスルーに対し、泥(正解のわからない)の中をもがき、何か突破口を掴むことをマドルスルーと表現する。泥の中でもがいて作り上げた作品だからこそ、大きな進化があり、感動を起こす作品が産まれる。ダンスファンの方々には、泥の中でその心が折れないよう長い目でDリーガーたちを支えてほしい。
いくつかのチームが過去のシーズンでそうであったように、良い作品を生み出しながらも戦績が振るわないチームにとっては、サイファーラウンドがマドルスルーの起点となるかもしれない。不確定要素の多いサイファーラウンドだからこそ、どんな展開が起こるのか楽しみだ。