素人がダンサーに聞いてみた結果w 〜イベント出演とチケットノルマ〜

今回のコラムでは、日ごろ私がストリートダンス界について疑問に思っていることを、ダンサーの方に質問します。テーマは「イベント出演とチケットノルマ」です。

今回のコラムでは、日ごろ私がストリートダンス界について疑問に思っていることを、ダンサーの方に質問します。テーマは「イベント出演とチケットノルマ」です。

【登場人物】

meika
めいか:このコラムを書いている私。非ダンサー。

enushi
エヌ氏(仮名):都内在住のダンサー。

誰のためのチケットノルマ?

meika
バンドや演劇など、さまざまなパフォーミングの分野で存在する「チケットノルマ」。もちろんストリートダンスイベントでも存在します。しかし、以前から私はストリートダンスイベントのチケットノルマに対して、正体のわからない違和感を持っていました。
なので本日は、実際に踊る側の人に質問しながら、チケットノルマについて考えていきたいと思います。
私が個人的に感じていることをお伺いしますので、エヌ氏さんもあくまで個人的な意見として、率直にお答えいただければと思います。よろしくお願いいたします。

enushi
よろしくお願いします。

meika
もともと私がチケットノルマに興味をもったきっかけは、あるバックダンサーオーディション情報を見た時でした。その告知によると、オーディションに合格したダンサーにもチケットノルマがあって、合格時にノルマを支払うとのこと。それを見てびっくりしたんです。
びっくりした理由は主に2点です。
一つは、私の感覚としては、「オーディションをパスしているダンサーであればきっと素晴らしいダンサーなんだろう」という思いがあるので、そんな人がノルマを払ってステージに出ているという点。
もう一つは、演者にチケットノルマを課するというのは「自分でお客さんを呼んできなさい」という意味だと思うので、それをステージをサポートするのがお仕事のバックダンサーに求めているという点です。
ついでにいうとこの方法だと、バックダンサーに合格した人が多ければ多いほど、イベント主催者が努力しなくてもノルマでチケットがさばけるので、「なんかずるくない?」と思いました。
こういうのは、オーディションとしてよくあるパターンなのでしょうか?

enushi
まず、めいかさんが驚かれてるバックダンサーに合格してもノルマがあるということは僕も初めて聞きました……。
正直オーディションという名前で人集めて、アーティストを使って発表会をしてるに過ぎないゲスな商売方法ですね。ありえないし、意味分からないというのが正直なとこ。

meika
オーディション情報に書かれていないところで出演料や手当が発生していたかもしれないので、本当にゲスだったかは今となっては確認ができませんが……。
とりあえず、私が見たのは珍しいケースだったんですね。ある意味安心しました。

enushi
しかしながら、それでも出たいと思うダンサーがいるのは理解できます。アーティストのバックを踊ったという経歴が欲しい、好きなアーティストと絡みたい、少しでも目立ちたいなど、それぞれに目的があるのでしょう。

meika
たしかに目的が「経歴がほしい」であれば、社会人がキャリアアップのために受験料を払って資格を取るようなものだと思えます。お金を払ってなにか特別な経験をしたい気持ちもわかります。
あんまり頻繁にノルマでお金が飛んでいくようだと活動を続けていくのは難しいかもしれませんが、特別な機会であれば惜しくないでしょうね。

enushi
発表会も同じく、出演費とチケットノルマが発生するけれど、先生に師事していることをアピールしたいから出る。
もしくは「みんなの前で踊りたい」というダンサーの「出たい」と思うニーズに対して、提供側も利益が出て、先生にもギャラが入る。ある意味Win-Winなのです。

チケットノルマとモチベーション

meika
ノルマを払う側の気持ちはなんとなくわかってきました。
チケットノルマは日本では一般的だけど、海外には存在しない制度だと聞いたことがあります。ストリートダンスって海外と近いイメージがありますが、ダンス界でも普及し続けている背景などはあるのでしょうか?

enushi
僕が出てたイベントも、最近一部ノルマは出てきました。
元々は、あくまでイベントに出るのは主体性を持つべきだし、お客を呼ぶのも自分たちが人気出たいなら当たり前にやるもの。
しかし、ダンサーはただ自分が踊りたいから踊っているという時代に突入してきてるので、自分が踊るだけで集客には全く関係がなくなってきてます。以前より他人のダンスにあまり興味が無くなってきている。
そこでノルマを少しでもかけて責任を持たせて、イベントに参加させるという手法が定着した感じです。クラブイベントでもそうですね。
バンド系だとチケットノルマというのは、ライブを行う際に必須であることも多いですが、ダンス界でもそうなってきたという感じです。「ファンは自分で獲得する!」というバンド系と、イベントで自分が出たいからノルマを払うというダンス系では、モチベーションそのもののベクトルが違いますがね……。

meika
「モチベーションのベクトルの違い」。きっとそれですよ!
今まで私の頭の中でチケットノルマといえば、バンド系のイメージが強かったです。ダンス系とはベクトルが違うのに、比べて考えてしまっていたので、「何か違う」という違和感があったんだと思います。

enushi
ダンサーは「自分のファンになってもらおう」という意識が、すこぶる他の業界と比べて低いです。
そもそも「ダンスでマネタイズして生活しよう!」「一攫千金を狙おう!」「成り上がろう!」って思ってないからでしょうね。
でもこれからは、エンターテイメント全てがこのファン力によってのみ形成されていくのではないかと思います。
音楽もダンスもそれ以外も、結局自分の発信するコンテンツや魅力で、どれだけ多くの方魅了させ、ファンになってもらいその対価をいただくか。その対価で生きていくのが、どんなジャンルにも共通で言えるアーティストなのでは、と思います。

質疑を終えて

以前から疑問だったストリートダンス界のチケットノルマ事情について、そしてそこからダンサーの価値感についても少し理解を深めることができました。

印象的だったのは、「ファンになってもらおうという意識がすこぶる他の業界と比べて弱い」ということ。これは私自身もストリートダンスを見ていて感じたことがあります。
イベント出演後のダンサーがよくSNSで「出演者の皆さん、関係者のみなさん、ありがとうございました」とお礼を発信しているのを見かけます。
しかし、他のパフォーミング分野で見られがちな観客への感謝の言葉、「ご来場のみなさん、ありがとうございました」「見てくれたみなさん、ありがとうございました」などが無い場合をしばしば見かけます。
業界によって習慣はさまざまですし、私も感謝されるためにダンスを見ているわけではないので、それ自体を悪いと思ったわけではありませんが、ダンスを見始めた当初、他のジャンルと比べて不思議な点だと思いました。
「どうしてこういう習慣なんだろう?」と一人でもんもんと考えた結果「このジャンルでは『自分にファンが存在する』という概念が無いのでは?」という仮説に至りました。あくまで仮説です。

「他人のダンスにあまり興味が無くなってきている」という話は怖いですね。
極論ですがこの現象が進むと、ステージに立つ人は、どんどんむなしくなるんじゃないでしょうか。
だって、他人のダンスに興味が無いのであれば、自分のダンスを見てくれている他人も、本心では自分のダンスに興味を持ってくれていないということになりますから。
それでダンサーの方のモチベーションが下がり、いいダンスが見られなくなってしまっては残念なことです。

ダンサーが他人のダンスに興味が無くなってきているのなら、その分ダンサーじゃない人間がもっとダンスに興味を示すこと。
非ダンサーとして、ダンスのためにできることの1つなのかなと思いました。


icon私がコラム開始当初からDewsのアイコンとして使用している美少女のイラストは、友人の漫画家・藍さんが、数年前に描いたものを使わせてもらっています。何年たっても色あせない愛らしさ!
藍さんは現在、リアルすぎるアイドル群像マンガ『ミリオンドール』を無料配信メディア『GAMMA!』にて連載中(http://ganma.jp/mdoll)。Webやスマホアプリで読むことができます。
6月26日に単行本1巻、2巻が同時発売、7月からはアニメ(http://milliondoll.com/)も始まるので、マンガやアニメ好きな方はぜひチェックしてみてくださいね!

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