【市ケ尾】青春ど真ん中!生徒自主制作で全国2位!その難しさと素晴らしさ【山口先生】
「なぜ?」の問答を繰り返す
それでは、どうやってその『高校生らしい』作品を作っていくのか?
それは、徹底的に「問答を繰り返す」ことだと思います。
例を挙げてみましょう。
問答例:なぜこのテーマなのか?
→背景は? 込めたい思いは? このテーマを自分たちがやることの意味は? 自分たちのダンススタイルとのマッチは? 強みは活かせているか?
問答例:なぜこの音なのか?
→テーマとの相性は? ダンススタイルとのマッチは? ダンスミュージック足りえるか? 身体は自然に踊り出すか?(玄人にも刺さるか?)
問答例:なぜここでこの振付・構成なのか?
→無駄なシーンはないか? 音から聴いて作っているか? なくてもよい振付は1カウントもないか? テーマに合っているか? 展開に凹凸はあるか?
…こうやって何度も何度も「なぜ?」を繰り返していくことで、自分たちのこだわりたい点が見えてきます。こだわりがあるからこそ、そこに想いがのって、『唯一無二の自分たちで作った作品』になっていくのだと思います。
この作業は生徒だけでやってもいいですが、自分たちだけだと気づきにくいことも多いです。だからこそ、ここで顧問の先生の出番です。
生徒自主制作系の学校だと顧問の先生がどう関わってよいかわからないことも多いと思います。ダンス未経験の先生ならなおさらです。でも、この問答を繰り返すことに専門的な知識は必要ありません。ビジネスでいうところの『壁打ち』です。
「なんで?なんで?それだと説明できていなくない?」と何度も生徒に聞いてあげてほしいですし、生徒のみなさんも積極的に聞きにいってほしいです。
振り付けをしない僕は、この問答だけは徹底していて、なかなかOKを出さないので、生徒たちはいっつも不服そうで拗ねていました(笑)。自分たちで考えに考えたものを否定された気持ちになってしまうので、当たり前ではあります……。まぁ、それでもなおOKは出しませんが(笑)、ここが我慢比べなんです。
「自分たちが納得するのなら良い」としてしまうか、「これはすごく良い」というものが出るまで粘るかどうかが、入賞するかどうかの分かれ目になっているからなのです。粘って出た答えの方が良いものに決まっていますし、その過程自体が最大の武器となるドラマを生みます。
考えて考えて話し合って、それでもなおうまくいかないからこそ仲間同士ぶつかって、そうやってみんなでたどり着いた作品なんて、死ぬほど愛着が湧くに決まっています。
考えて考えて、「一生に一回しかない、その中で私たちがやるならこれしかない」という、与えられたものではない、世界にひとつしかない、まるで自分たちの産んだ子どものようであり、自分たち自身でもある自分たちの作品なんて、想いをのせやすいに決まっています!
これこそが、生徒自主制作作品の唯一無二の強さの秘訣だと僕は考えています。
生徒自主制作を言い訳にしない!
プロでもない、むしろナンバーすら大して作ったことのない生徒たちで、「絶対に全国大会にいきたい」という自分たちの夢を叶える作品を作る道のりは、本当にキツいです。
その過程には苦しい、つらい、悔しい、辞めたい…全部あります。どんなハードな練習よりも、年間を通して断トツ1番キツいのは『生みの苦しみ』です。
思ったような形にならない、もう何が正解かわからない、そもそも踊り込み練習までたどり着けない…他のスポーツとのもう1つの大きな違いがここで、ダンスはただ上手ければ勝てるというものではありません。「無から有を生み出す」表現活動であることこそが、ダンス部が体育系と文化系をまたがっている所以であり、醍醐味でもあります。
そういう意味で、生徒自主制作系のダンス部はその醍醐味をフルに味わっているともいえるのではないでしょうか? これを高校生のうちに経験できるのは本当に大きい!(とても教育的!どんな総合的な探究よりも総合的な探究!)
さらに、苦しみ、悩み、それを仲間とともに乗り越え、形にして、とてつもない緊張感の中で大会に出て、みんなで喜んだり悲しんだりする。どっちにしてもみんな号泣。この青春ど真ん中の王道ドラマこそが最大の武器になるだなんて、実利を超えた、生徒自主制作の素晴らしさではないでしょうか!?
まだまだダンス部顧問としては駆け出しの僕がノウハウと考えていること(の一部)を抽象的にですがつらつらと書かせていただきました。
正直、ライバルたる皆さんに手の内をさらしたくない気持ちもありましたし、「こんなことを考えながらやっていたんだ」と生徒にバレたくない気持ちもありました…これからやりにくいです(笑)。
でも、それでも寄稿文をお受けしたのは、「うちは自分たちで作品を作っているから…」これが自主制作系のダンス部の負けの言い訳になってほしくないからです!
むしろ大変なことに挑戦しているからこそ強みになりえるし、とんでもなく素敵な、一生に一回の最高の青春ができているのだと誇りに思ってほしいです!
そういった意味で、こちらの寄稿文が生徒自主制作系高校ダンス部の生徒・顧問のみなさんへのささやかなエールになってくれたら嬉しいです。
神奈川県立市ケ尾高等学校・前ダンス部顧問 山口太平