【ダンスク編集長コラム】思い出のダンス部〜登美丘高校編「バブリーダンス誕生前夜」
ダンス部取材歴10年のワタシが、過去に取材したダンス部を振り返って行こうというコラムシリーズです。
1回目は、日本一、いや世界一有名なダンス部である大阪府立登美丘高校。時は2017年、あのバブリーダンスについての秘話です!
登美丘高校の本気
バブリーダンスが旋風を起こしたのは、2017年。
その頃は、絶対王者としてダンススタジアム3連覇(2011年〜2013年)を果たしていた同志社香里に対して、登美丘高校がチャレンジャーとして現われ、2015年と2016年にダンススタジアムを連覇していた時代。
ダンス部の王道と言える正統派の同志社に対して、邪道の王道と言えるような登美丘の作風は、エアロビや大阪のおばちゃんをネタにしたユーモラスな、大阪風に言えば「笑かしにかかる」作品群で日本一を獲得していた。
ダンス部の作品にはもともと、何かをパロディにしたり、コミカルな演出を施すアプローチはあったのだが、登美丘のそれはすでにプロフェッショナルのレベルにあった。
OGであるakaneコーチの熱血指導により、ユーモラスなテーマと選曲、「恥ずかしがる=キモい!」と言う徹底した表情指導と、独創的すぎる振り付け、完璧なシンクロや激しい出ハケなどなど。ダンスと笑いとパロディがハイレベルで融合するその作品は、すでにオンリーワンの存在感を放っていた。
そんな登美丘がダンスタ3連覇をかけた勝負の2017年、どんな作品で挑んでくるか?という興味で、非常に肌寒い季節、1月の同校を訪れた。
▲バブリーダンス以前に、akaneコーチが「大阪のおばちゃん」ネタをレッスンした、ダンスクのWS企画。動画は「ダンスク!TV」史上最高の100万再生!
廊下で鳴ってた「ダンシングヒーロー」
全国優勝校とは言え、登美丘は公立高校。練習場所には恵まれず、廊下やピロティで部員がひしめき合うように練習している。
練習のテンションと基礎練の精度は高いものだが、経験者もそれほど多くなく、同志社香里などの中高一貫の伝統校に対抗するには、基礎技術の不足をakaneコーチは痛感していた。
そこを補うための独創的な振り付けと表情管理、徹底した踊り込みがあり、「登美丘の振り付けを世界一うまく踊れる集団を目指す」とakaneコーチは当時の取材で語っていた。
練習の内容が基礎から振り付けに移っていくと、そこで聴き覚えのある曲が。
まさか、冗談か余興ネタだと思ってしまったが、荻野目洋子の1985年のヒット曲「ダンシングヒーロー」だ!
皆の先頭に立ちテキパキと指導する、華やかな雰囲気のキャプテンに尋ねる。
「これって…?」
「はい、大会作品です!」
「ダンシングヒーローで?」
「はい!」
「ホントに〜?」
…その時は正直、寒い廊下で一心不乱に踊る登美丘の部員たちを不憫に思ってしまった。
エアロビ、大阪のおばちゃんと登美丘らしいネタは続いていたが、3連覇をかけた作品でまさかの「ダンシングヒーロー」って…、冗談にも過ぎるというか、発想が2段3段も抜かしすぎているというか…、大阪風に言えば「スベった」ネタに思えてしまったのだ。当時は。
「もっと目をひん向いて!」
「表情足りない!」
「指先まで気を抜かない!」
しかし、彼女たちは本気だった。
ダンス部の取材直後にはよくSNSで「こんなことやってました」という報告をするのだが、帰ろうとする私に「SNSで情報を出すのはやめてくださいね!」と、追いかけてきた部員が念を押してきた。
やはり、彼女たちは本気なのだ。
本気で「ダンシングヒーロー」で3連覇を狙おうとしているのだ。



