地球上ここでしか作れないダンス〜DANCE DANCE ASIA -Crossing the Movements- 東京公演レビュー〜

出展 : http://dancedanceasia.com/

ストリートダンスといえば、発祥の地であるアメリカや有名ダンサーやイベントの多いヨーロッパに目が行きがちです。でも実は身近なアジアに目を向けることで、知らなかった感動をたくさん発見することができる。DANCE DANCE ASIAの活動はそんなことを教えてくれます。
今回のコラムでは、12月に開催されたDANCE DANCE ASIA -Crossing the Movements- 東京公演を取り上げます。

DANCE DANCE ASIA -Crossing the Movements- 東京公演とは?

DANCE DANCE ASIA(以下「DDA」)は、今年で3年目となる国際交流基金アジアセンターと株式会社パルコが主催する、ストリートダンスによるアジア交流プロジェクト。初期のころはアジアの各国にて日本のダンスチームによる公演を開催する活動が多かったですが、昨年は日本公演を行ったり、日本とアジアのダンサーで舞台公演を共同制作したりと活動の幅を広げています。
今回のDDA東京公演では、日本、フィリピン、ベトナムの3人クリエイターがアジア各国から参加メンバーを選び、アジアと日本で1ヶ月のクリエイションを行い、3本の舞台公演作品を制作しました。アジア各国のダンサーと作品を作るという点は、同じDDAにより昨年開催された舞台公演『A Frame』と共通する部分もありますが、『A Frame』 は2週間日本でのクリエイションで作られたので、今回はよりコンセプトを深めた試みになっています。それにより他のダンスイベントでは見られない個性豊かな作品たちが生まれました。
公演期間中、演出家やダンサーが登壇するアフタートークイベントもあり、作品の裏にある背景をより深く知ることができました。私は都合により『CHAIRS』のチームが出演した回しか見ることができませんでしたが、できれば全チームのアフタートークが見たかったです。ここからはそれぞれの作品をご紹介していきます。

LION T(ベトナム)『CHAIRS』

舞台の上には公園にあるような長いす状のベンチが1つあります。そのベンチを中心にベトナムの人たちのさまざまな生活が描かれます。
印象に残っているシーンは、白いスーツ姿のポッパー・Jackson Boogie Jさん(マレーシア)が紙幣の映像を背景にポップを踊るダンス。雷鳴の音から始まるハードな雰囲気の作品です。ポップというジャンルはあまり顔の表情を出さずに踊る場合が多いと思いますが、そこから生まれる匿名的な雰囲気にダンサーが打つするどいヒットが冷たく響き、社会に対して問題提起をしているようです。
そんなシーンがありながらも、作品全体としてはとてもハッピーな雰囲気。少年と少女の恋愛や家族の関係を表すシーンがあり動きがオーバーでコミカル。工場で働く人たちといきいきと踊るシーンはとてもエネルギッシュ。ベンチの使い方も面白く、女性ダンサーを持ち上げるシーンは神輿を担いでいるようで気分が高揚しました。

全体の印象としていきいきとパワフルな作品だと思ったのですが、細かい部分で疑問もわきました。例えば、MARINさん(日本)は学生役、Maitinhviさん(日本)はその母親役として登場します。後半この2人が同じ職場で働くシーンがあり、私はMARINさんは学生だと思っていたので「あれ?」と思いました。しかしアフタートークによると、これはベトナムの学生の中には生活のためにアルバイトをする子も多いという事情を反映しているそうです。

日本であれば親と同じ職場でアルバイトをするなんて子どもが嫌がると思いますが、この作品ではそうはなりません。そしてその職場の人たちとみんなで明るく踊ります。お金の問題だけがシリアスなトーンですが、それ以外のベトナムの人たちの暮らしはとてもハッピー。お金にとらわれない、ベトナムの人たちのつながりのパワーを感じる幸せな作品でした。

Vince Mendoza “Crazybeans”(フィリピン)『HILATAS〈君を導く光〉』

まどろみながら見る夢のような作品。冒頭はダンサーたちが寝転がったシーンから始まり、楽器クビンなどを使ったエスニック調の音楽で踊ります。このチームはメンバーはコンテンポラリーダンサー2名、ブレイクダンサー2名、ポップやロックといった立ち踊りジャンルのストリートダンサー2名で構成されていて、ジャンルの選び方にも思い入れがあるように感じました。コンテンポラリーとストリートというのは相反するジャンルのように思われがちですが、この作品ではとてもうまく融合されています。異なるジャンルのダンサーが、こんなにも同じ波長と同じパワーで1つの作品を作ることができるんだということに驚きました。

目を引いたのは15歳のブレイカーBboy Allenさん(フィリピン)。BBOY独特の観客を煽るようなスタイルとは違い、コンテンポラリーを踊るような静かさとのびやかさでパワームーブを繰り出すスタイルは、見たことのないダンスでした。こんなダンスができて15歳ということにかなり驚かされましたが、確かに若いBBOYらしい柔軟なダンスだとも思いました。
作品としては、Rhosam V. Prudenciado Jr. “Sickledsam”さん(フィリピン)、Birdさん(シンガポール)、松田尚子さん(日本)の 3人のダンサーが踊るコンテンポラリー作品が胸に迫りました。3人が舞台上で叫ぶシーンでは非常に強い感情が放たれます。男女の恋愛の三角関係を表すストーリーだと思いながら見ていたので結末には何かしらの選択を示して終わるのかなと思いきや、特に誰かが幸せを得たような雰囲気はなく、だけど少しの癒しが提示されていて、私にとって意外性を感じるものでした。

多くのストリートダンサーが目標とするものの1つに「自分が踊るダンスジャンルの歴史や世界観を自分のダンスで体現する」というのがあるかと思います。しかしこの作品はそれとはまったく異なっていて、ダンスの中の何かを目指すのではなく、ダンスを道具にして外にある何かにアプローチしようとしているように見え、とても新しいと思いました。

牧宗孝(日本)『BLACK LIP BOYS』

タイトル通り黒い唇をした5人の男性ダンサーが、スタイリッシュに妖艶に踊ります。衣装やメイクが一人一人違っていてとてもおしゃれ。華やかでそれだけでも見ていて楽しくなるファッションショーのようなステージ。ソロの時間も長く取られていたのでダンサーのスキルも個性をたっぷりと味わえます。「かしこまりました」「100万円」など日本語のフレーズを無機質に繰り返す曲は、多国籍のメンバーで踊るからこその面白さがありました。ダンサーの国籍が違うことが個性がよりカラフルに引き立ちます。
ファッショナブルでキャッチー。東京から発信されるアジアのダンスの公演としてとても素晴らしい締めくくりの作品でした。

この作品に参加しているTeDoubleDy Teddyさん(マレーシア)は昨年のDDA公演『A Frame』でその時存在を知りました。マレーシアでは過激なダンスとファッションで多くのファンを得ている知った時、真っ先に頭に浮かんだのが東京ゲゲゲイでした。なので翌年こうやって牧さんの演出でTeDoubleDy Teddyさんが見れるとなり、とても楽しみにしていました。牧さんの演出で彩られたTeDoubleDy Teddyさんは衣装の露出が高く、ダメージジーンズからピンクのTバックが覗く衣装はドキリとさせられるものなんですが、TeDoubleDy Teddyさんらしく過激でキュート。ダンスも良くて見たいものが見れました。

ダンスで印象的だったのは、中性的なルックスをしたヴォーグダンサーA-Yao Ninjaさん(台湾)のソロ。金色の振袖のような衣装と袖の長いインナーを着て、背景には日本画風の植物画が投影され、それがとても凜とした絵を作ります。袖がはためく衣装がヴォーグの腕の動きを普段とはひと味違うものにします。
おまりにも美しくもはや生身の人間というよりも、冨樫義博さんの漫画に出てくる中性的な美形のキャラクター(蔵馬やクラピカのような)のように思ってしまいました。

ダンスのスキルはもちろん、それに加えてキャラクターも活きるように演出されたステージでだったので、アイドルを応援するように5人のキャラクターとダンスををぜひまた楽しみたいと思いました。


東京でのクリエインション期間中にDANCE@LIVEの東京予選があり、公演のために日本に来ていた演出家やダンサーがエントリーしていました。シーンを問わず自由に積極的にダンスを楽しむ姿勢がとても素敵だと思いました。

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