[映画レビュー]この秋オススメの映画「はじまりはHIPHOP」はもう一度見たくなる心温まるドキュメンタリー。世界最高齢ダンスクルーの挑戦の物語

「うちのクルー(チームメンバー)の最高齢は96歳で、車椅子だけどクランピングが得意よ。」 衝撃の一言で始まるこの映画は、ニュージーランドに実在する平均年齢83歳のダンスクルー、The Hip Op-eration Crewのメンバーが、ラスベガスで行われるHIP HOPダンスの世界大会の舞台に立つまでのドキュメンタリー。

「うちのクルー(チームメンバー)の最高齢は96歳で、車椅子だけどクランピングが得意よ。」
衝撃の一言で始まるこの映画は、ニュージーランドに実在する平均年齢83歳のダンスクルー、The Hip Op-eration Crewのメンバーが、ラスベガスで行われるHIP HOPダンスの世界大会の舞台に立つまでのドキュメンタリー。

ダンス映画といえば、STOMPtheYARDやHONEY、you got servedに代表されるダンスバトルもの、STEP-UPのような身分やジャンルの違いを超えて踊る美女と野獣もの、RIZEのようなダンスと貧困に関するドキュメンタリーや歴史解説などが有名だ。今回はどのカテゴリーにもあてはまらない高齢者が踊るお涙頂戴ものだろうと重い足を運んだが、その予想は良い方向に、それもかなり見事に裏切られた。

「ラスベガスに行くのよ!死んだら骨壺に入れてもっていくわ」

「マイケルジャクソンが股間を触るのを見た当時は嫌いだったけど、今じゃ私もやるわ」

「ヒップホップという若者のダンスに挑戦することを決めたわ、似合わないとわかっていてもね」

と、驚くほど小粋でアグレッシブな会話が、テンポよく続いていく。

通常その年齢では考えられないチャレンジャースピリット溢れた高齢者たちがHIPHOPカルチャーに尊敬の念を示すため、と果敢にHIP HOPダンスに挑戦する。リーダー格の94歳のキュートなおばあちゃんから杖や歩行器を使わないと歩けないレベルの高齢者たちが、ダンスの練習をしながら次々にインタビューに答えてくれる。

このインタビューの濃さがThe Hip Op-eration Crewのダンスに異常な厚みをもたらしている。

インタビュー内容はダンスについてではない。このメンバーの過去や生い立ちについてだ。ハワイアンミュージックをBGMに、子や孫の話、ダンス経験、昔の仕事の話、夫とのエピソード、遠い昔の初恋の話など、ゆっくりメンバーのキャラクターが輪郭立っていく。

年齢からして戦争の経験者もおり、ダンサーとしてではなく人として考えておきたい話もずらずらと出てくる。核爆弾の映像が流れ、平和のことを考えている、という真剣な話。乳がんで手術をし、当時は支援団体もなく苦労したという話。夫が認知症で寝たきりになってしまい、二人で安楽死も考えたという話。名言のオンパレードだ。

そうした経験を経て、今はダンスが楽しくて仕方ない、と皆は口を揃えて言う。ダンス以前に、表現者として身につけておきたい年輪の分厚さが、ひとまわりもふた回りも違うのだ。

ダンサーの最高年齢は冒頭で紹介したクランパーの96歳の車椅子のおばあちゃん。海が割れるように登場しゆっくり腕をスウィングするのだが、それだけで観客からスタンディングオベーションがおくられる。しかし彼女はドクターストップがかかりラスベガス行きは叶わない。

テレビがクルーを特集するシーンでは、おばあちゃんたちにストリートネームをつけようということで、”2-cents”や”MISSY”などHIP HOPにちなんだ名前を冠するところも、知ってる人にはたまらないネタだ。

登場人物の中でも中心人物として、ダンスを指導するのは自称世界最低レベルの振付け師ビリー。2011年のクライストチャーチ地震を機にNZのワイヘキ島へ移り住み、老人たちをダンスに誘った。老人介護のように高齢者の住宅を回り、いろんな話を聞いてダンスのモチベーションを上げていく。一方でラスベガスへの渡航資金不足に悩み、奔走する姿も描かれる。地震、高齢化、不景気、グローバル化、NZにも日本と同じ問題が転がっている。そこでどんな出会いがあり、どうやってラスベガスまで行ったのかは是非映画本編で確認して欲しい。

こうしたあらすじを大方知っていても十分楽しめる内容となっているところがこの映画のすごいところだ。ダンスの質自体は映画に出てくる他のダンサーと比べてもまったくもって高いとは言えない。キングタットやトップロックなど基礎的なステップがメインであっても、リハビリしないと関節すら自由に動かせない年代の人たちが一生懸命表現し、人を楽しませようとし、お互いを励ましあい、若者を賞賛する姿には心を打たれる。映画の最後には思わず涙がこぼれた。

なお、世界大会であるHIP HOP International主催のWORLD HIPHOP DANCE CHAMPION SHIPでは、中学高校部門に当たるVarsity Division(13〜17歳)で日本代表のKana-Boon!が2年連続優勝をしている。

クラウドファンディングで資金が集められ、8月にメンバーの一部が来日した。メンバーは入れ替わっているが今も最高齢は96歳のようだ。東京ではシネスイッチ銀座にて上映されている。映画館に確認したところいつまで上映するかは反響次第なのでわからないが少なくとも9月いっぱいまでは行うとのこと。全国でロードショーされているのでぜひチェックして欲しい。

また、公式サイトには映画やThe Hip Op-eration CrewだけでなくHIPHOPダンスやニュージーランドについての解説も書かれており非常にポップなデザインとなっている。
なお映画館では「83歳の夢キャンペーン」が行われており、夢を描いた人の中から抽選でプレゼントが贈られる。その中で素敵な夢を見つけたので最後に紹介して終わりたい。
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