母と娘の夢、ダンサーの夢 〜進化する舞台『*ASTERISK〜女神の光〜』レビュー〜

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今回のコラムでは、2015年5月8日(金)〜10日(日)まで国際フォーラムで上演された『*ASTERISK〜女神の光〜』を取り上げます。

『ASTERISK』とは?

2013年に始まった、豪華ストリートダンサー達によるドラマ性の高いダンス公演シリーズ。過去2年は、ダンスカンパニー・DAZZLEが作・演出を担当。3年目の上演となる今回は、牧宗孝さん(MIKEY from 東京ゲゲゲイ)が作・演出をつとめます。ストーリーも出演ダンサーも一新し、新たな舞台として生まれ変わりました。

今回の主役はKoharu Sugawaraさん。Koharuさん演じるの娘・HIKARUと、原田薫さん演じる母・KAORUの愛憎が描かれます。

前回も出演した仲宗根梨乃さん、BLUE TOKYO、s**t kingzに加え、ざまざまなシーンで活躍する女性ストリートダンサー筆頭・YOSHIEさん、世界的バトラー・KITEさん、今最も注目度の高いAyaBambiなど、今回も日本のトップダンサー達がずらりとキャスティングされました。HATABOYやLUCIFERといった若いダンサーも多く出演し、LIL’GRAND-BITCHさんがMCや歌唱シーンで出演。幅広い世代と個性が競演する舞台となりました。

ストーリーに沿って振り返ってみましょう。

母と娘の愛憎 第1幕

ストーリーは、原田薫さん演じる母・KAORUが、ダンサーにとっての夢のステージである「Club ASTERISK」で踊っていた1995年から始まります。この公演の一番最初のシーンは、1995年のClub ASTERISKのショー。その豪華さにまず度肝を抜かれます。
スターダンサーへの道が開かれたKAORUですが、その後、妊娠が発覚しダンサーを引退します。
そして生まれてきたのが、Koharu Sugawaraさん演じる娘・HIKARU。
KAORUは、自分が果たせなかったトップダンサーになる夢をHIKARUに託し、熱心に教育します。HIKARUは成長するにつれ、そんな母親を疑い、反発するようになります。

公演が始まり、昨年までのバージョンとの大きな違いを1つ発見しました。それは、出演者が声を出して演技をする場面があることです。
それがまずわかるのが、小学生のHIKARUがダンスコンテストに出場するシーン。
LIL’GRAND-BITCHさんが、アドリブをきかせた軽妙なトークでコンテストの司会をします。ジャッジ役のKITEさん、YOSHIEさん、LUCIFERも、ジャッジとしてコメントするシーンがあります。
実際にジャッジを何度も経験してきたであろうダンサーだけに、このシーンは非常にリアル。特にKITEさんのコメントが明るくユーモアにあふれ、どこまでが台本でどこからがアドリブなのか分からない自然さ。KITEさん自身の人柄の魅力を強く感じました。

このコンテストで踊り終わった後、HIKARUはジャッジのYOSHIEさんに、何のために踊っているのか尋ねられます。HIKARUの答えは「ママのため」。そしてそれに対してYOSHIEさんは、「ママのためもいいけど、いつか自分のために踊れるようになったとき、もう一回見たいかな」と返します。
胸に来ますね。だって、「今のあなたはもういい」と言われたようなものですから。

その後HIKARUは成長し、高校3年生で親が離婚。それにともない転校します。
転校したHIKARUが、男子高校生・HATABOYと、女子高生・東京ゲゲゲイのいる新しいクラスになじんでいく様子を、ファンキーなヒップホップで表現するシーンがあります。
このシーンでは、東京ゲゲゲイとHATABOYが、自分たちのチーム名の入った歌詞を、自分たちの声の入った曲で踊ります。若さと元気を感じる制服ダンスシーンです。

このシーンで真ん中で踊るHIKARUがすごくいいんです。同級生に囲まれて、他の子にはないオーラを放っている。明らかにダンスの才能を感じるんです。
もちろん踊っているのがKoharuさんだから、「そりゃそうだ」という部分もあります。でもKoharuさんのダンスが輝けば輝くほどに、役のHIKARUが「踊っていても楽しくない」ということが、より一層切なく際立ちます。こんなに輝いているのに。

愛憎の終わりとHIKARUの今 第2幕

第2幕では少し時間が経過し、高校を卒業したHIKARUは家を出て一人暮らしをしています。母親とはあまり連絡をとっていない様子。バイト先の人たちは温かく、恋人もいて、それなりに充実した日々。そんなHIKARUの誕生日からスタートします。
私は第2幕冒頭にある、HIKARUのバイト先を描いたs**t kingzのシーンと、誕生日の夜に恋人とデートする50さんとのシーンがとても好きでした。

s**t kingzのシーンは、HIKARUがバイトをする焼き鳥屋の様子をコミカルに描いたもの。店員とそこにやってくる酔っ払いのサラリーマンをs**t kingzが演じます。スタイリッシュなイメージのs**t kingzが、焼き鳥屋という設定が意外でした。4人の酔った動きとダンスが絶妙な息の合い具合で、つい笑い声が出てしまいました。
50さんのシーンはロマンチックなヒップホップでうっとりと引き込まれました。ああいうリリカルなヒップホップを生で見たことのなかったこともあり、見入りました。

好きな理由として作品やダンサーの魅力はもちろんです。しかし、思えばあのシーン以降ストーリーが急展開し、母と娘の関係は取り戻せないものになっていきます。なので、誕生日を祝ってくれるバイト仲間や恋人がいたあの日は、HIKARUが一番幸せだった最後の1日のように思います。それも、私があのシーンに思い入れを感じる一つの理由に思えます。

この公演は大部分は、HIKARUによる過去の回想でできています。ではHIKARUは、時系列でいうと「いつ」の時点から過去を回想しているのでしょうか?
おそらく、第2幕の中盤。母との関係に、1つの決着がついたちょっと後くらいが現在なのでしょう。決着がついたからこそ、昔のアルバムやビデオを見て、子ども時代からさかのぼって母のことを考えているのでしょう。(どんな形で関係に決着がついたかは、ここでは書きません)

そう思いながら第1幕のHIKARUのナレーションを振り返ると、HIKARUの母に対する思いの強さをさらに実感します。
第1幕のナレーションは、痛々しいほど繊細な言葉でHIKARUの気持ちが語られます。特にグサリときたのは「これって甘えなのかな?」という現在進行形の問い。
これはあくまで私の経験で、人によるのでしょうが、母に限らず人間関係の問題にあんな形で決着がつくと、その人対して何かを求める思いが、多少マイルドになると思うんです。あくまで私個人の経験則ですが。
なのにHIKARUは母に向かって訴えて、問い続けます。そこにHIKARUがいかに母親の愛を欲していたかを生々しく感じました。

奇天烈な牧演出ワールド

ここで一つ、母・KAORUに目を向けてみましょう。
公演中を通じて、よりどころがないくらい深い母性を感じるKAORU。それだけHIKARUへの思いの強さを感じます。ではHIKARUが親元を離れてしまったら、KAORUには何が残るのでしょう?

この公演中、第2幕の数シーンだけ、KAORU視点のシーンがあります。第2幕というと、HIKARUが親元を離れた後ですね。
それまでのHIKARU視点のシーンは、繊細でまっすぐな少女の言葉のナレーション。それに対して、KAORUのシーンは、唐突な理屈をまくし立てるもの。この、HIKARUシーンの繊細さとKAORUシーンの奇抜さのギャップがすごい。KAORUシーンは奇妙な言葉によって現実とイメージが入り乱れる、まさしく、東京ゲゲゲイでおなじみの、奇天烈メンタルワールドです。

印象深かったのは、BLUE TOKYOのシーン。KAORUが電車の中で邪魔者扱いされるシーンから、BLUE TOKYOが踊るの心象イメージへとつながります。
天井には糸を垂らす手のイラストがつり下げられ、セット上に立ったポールをBLUE TOKYOが競ってよじ登ります。
無個性なスーツ姿のBLUE TOKYOと、平面的な日本画風の手。3次元と2次元の、異なる次元がコラージュされた不思議なビジュアル。
例え一番高く登れても、そこにあるのは偽物の手なのに……。身体能力を生かして、より高くとポールを登るBLUE TOKYOが美しくもあり、滑稽でした。

第1幕のKAORUは、厳しすぎるところはあっても、娘を思う気持ちも感じられました。
しかし、HIKARUが独立し疎遠気味になった第2幕では、かなり壊れた描かれ方をしています。ナレーションの言葉にも、読み上げる原田さんの声にも、狂気を感じました。
一番ゾクリとしたのは、「ではさようなら」というセリフ。
その直前まで、KAORUは今までずっとどんなことを考えていたのかを、とうとうとう語ります。そして次の瞬間、急に機械的な早口でこのセリフを言います。この常軌を逸した抑揚を聞いた時、「この人はもうダメだな」と思いました。

すれ違ってばかりだった母と娘。しかしHIKARUは後になってKAORUが、近々開催されるASTERISKのオーディションのチラシを持っていたのを知ります。
KAORUは、いつから、どんな気持ちでチラシを持っていたのでしょうか。
それまでのKAORUの行動を見てみると、娘に対してあれこれ強要しているように見えます。なので、オーディションを受けてほしければ、HIKARUの家にずかずかと押しかけて、チラシを渡せばよかったんです。
でも、KAORUはそれができませんでした。
HIKARUはダンスを習っていたせいで、母との関係がうまくいかず、ダンスを愛する気持ちを失います。しかしKAORUもまた、ダンスのことで娘が離れ、自分自身も傷ついていたんですね。

「Club ASTERISK」を巡って
この公演で主に描かれているのは母と娘の愛憎ですが「Club ASTERISK」を巡る群像劇の側面もあります。
現在Club ASTERISKの支配人である、しばきまくる子(YOHIEさん)は、かつてKAORUのダンスに魅了された一人。Club ASTERISKのダンサー・仲宗根梨乃さんにはトップダンサーのプライドがあります。そして、Club ASTERISKへの出演を夢見るたくさんのダンサーたちも登場。さまざまな人の思いを描いています。

印象的だったのは、YOSHIEさん演じる支配人・しばきまくる子が、ASTERISKがどんなに価値のあるショーなのかを踊りながら熱弁するシーンです。これを見た私は感動しました。
「踊りながら」というのは、「音楽がかかったダンスシーンの途中でセリフを言う」というわけではありません。そこで踊る必然性はないのに、演技の最中、熱く語るYOSHIEさんの体が、ぶるぶる動いて踊っているんです。
一見コミカルなんですが、これをダンサーやることにすごく意味を感じました。
しばきまくる子のClub ASTERISKに対する思いや、YOSHIEさん自身のダンスに対する思いまで伝わってくるようです。

2015年Club ASTERISKのオーディションのシーンや、その後に続く本番のシーンは多数のダンサーが登場するダンスの見せ場。本番のASTERISK2015のシーンは、s**t kingz、LUCIFER、KITEさんのコラボもあり、とても見応えがありました。


この公演の千秋楽、2015年5月10日は母の日でした。そのこともストーリーをより一層胸に刺さるものにしていたと思います。
ちょっと前に「毒親」「毒母」という言葉が注目されました。実の母と娘の関係は、女性の悩みの1つとしての認知度が高まっています。公演を見て、母と娘のうまくいかない関係に強く共感をよせた女性も多かったことでしょう。
かくいう私はどうかというと、その点は「そうでもなかった」という感じです。

ここまで書いてきて1つ告白すると、私は公演のストーリーについて「自分とは遠い話だな」と思いながら見ていました。
というのも、私はダンスをやっていないし、母からプレッシャーをかけられた記憶もほぼないので(ありがたいことですね)、HIKARUとの共通点を自分に見つけられないんです。母はとうに他界しているので、現在進行形で母との関係に悩むこともありません。
HIKARUの行動や感情を頭で理解できるのですが、「共感したか?」と聞かれれば微妙です。

なので私は回想シーンで進む第1幕を「HIKARUは大変だなぁ」と他人事のように思っていました。もちろん私のために書かれたストーリーではないので、それは作品のよしあしとは別問題です。
ただ、多くの観客が自分自身と重ねて見ているだろう部分を、重ねられないことを歯がゆく思いました。

で、ここからが私の主張したいことです。
そんな私とHIKARUとの距離を一瞬で縮めたのが、ラストシーンのHIKARUのソロでした。
星空の下、何も置かれていない裸の舞台。その空間を縦横無尽に踊るKoharuさんの姿から、言葉にできない強いエネルギーを感じました。

ソロが始まった瞬間、HIKARUの心の奥にあるものが津波のように押し寄せてきました。伝えられなかった母への思いの量や、母と交わした言葉の数や、HIKARUの生きた20年の時間。そして私の中にはっきりと、HIKARUという存在が生まれました。
第1幕ではHIKARUを見て他人事のように「大変だなぁ」と思っていたのが、公演が終わる頃には「つらかったね。わかるよ」と声をかけたくなるほど、HIKARUとの距離が近く、存在が具体的なものになりました。
「ダンスをやっていない」とか「私の母はそういう人間ではなかった」という私の事実を飛び越えて、わかるするはずのないHIKARUの人生を「わかった」と思ったんです。
ダンスって、人ひとりの人生をまるごと伝える力を持っているんですね。そんなことってあるんですね。
私にとって発見でした。

昨年までのバージョンも、ダンスの見方を変えてくれるすてきな公演でした。そして今回のバージョンもまた、私に新しい発見をくれました。
この作品では、ASTERISKが20年以上続く、すべてのダンサーの憧れのステージとして描かれています。実際のASTERISKは3年目。これからもトップダンサーの集う唯一無二のステージとして、作中の舞台を超えるほど、長く続き進化する姿を見たいです。

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ストリートダンスと女性アイドルの熱いファン。
サークル・KAFLY(http://kafly48.minibird.jp/)で女性アイドルのミニコミ誌を定期発行しています。今一推しのアイドルは東京パフォーマンスドールの橘二葉ちゃん。
苦手な食べ物はなすびとマンゴー。

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