【評論】ダンス部の教育的効果〜DANCEで創る未来を生きるチカラ(前編)
#2 関わり・繋がり
「もっと良くなっていこう」という姿勢が自然に
150名を超えるマンモスダンス部、千葉県立幕張総合高校の練習風景。弊誌が一番最初に取材した学校だが、基礎トレを共同責任としてしっかりこなし、ユニゾンの細部にこだわり、規律と礼節を重んじるその姿は、従来のダンスシーンにはないものだったが、逆に「ダンス部らしさ」を感じさせる光景であった。
ダンス部は他の部活に比べて、関わりや繋がりの幅が広い。それは、ダンスが競技であり表現であること。記録や得点ではなく、人の心を動かすことを目的としていることにある。ダンスを広く見てもらうためも、さまざまな人と繋がる必要があるのだ。
緒方先生:ダンス部の活動では、様々な「関わり」が持てることが何よりも本人の成長に繋がると思います。音楽との「関わり」、先生や先輩・後輩との「関わり」、保護者との「関わり」、部員同士の「関わり」。 本校では作品創りを生徒たちに任せていますが、その過程で多くのものと「関わり」ます。本気で作品創りを行なえば、本気で音楽や人と向き合わなければなりません。それは希薄な「関わり」ではなく、かなり濃厚なものです。譲れないものがあれば、積極的に意見を出して主張しなければなりません。逆の場合はあえて意見をひかえて他者の意見を尊重することも必要となります。生徒同士がぶつかって対立が起こり、毎年のように何らかの問題が発生します。このような本気の「関わり」から学ぶことは、他の活動を通してもできるとは思いますが、ダンス部での活動は、このような本気の「関わり」をより体験しやすいのではないかと思います。
八木先生:ダンス部の改革の1つとして、イベントやボランティア活動に力を入れていきました。例えば、赤十字の募金や震災の募金活動など「世の中のために動く」ということです。老人ホームに行った時には、ご老人たちが高校生のダンスを見て手を握って泣くんですよ! その繋がりは生徒にとって衝撃だったと思います。保育所では、子供がまとわりつくほどなついてくれたり、病院の慰問では患者さんが元気になってくれたり。そこでは、自分たちの一生懸命が裏切られることなく、しっかり返ってくる。対象が望んでいることを考えて、そこに向けて一生懸命作っていけば、きちんと感謝が返ってくる。その経験の中で、やり甲斐や自己肯定感が得られる。それまで斜に構えていたダンス部員の姿勢が「もっと良くなっていこう!」って自然に変わっていきました。他の部活に比べてダンス部の場合は人と繋がれる面白さがあるんですよね。ダンス関係者だけでなく、地域やイベントの関係者、メディアや企業や役所の方々など、どんどん人の輪が広がっていきます。そしてイベントへの出演はコンテスト作品にも繋がります。審査員がどんなことを評価するだろうかってことを考えること。要するに、対象の心を動かすことですから。
神田橋先生:イベントや大会をやると生徒は成長します。挑戦すること、褒められること、反省することなどの経験を通じて、イベントが生徒を成長させてくれる。ウチはいろいろやるダンス部なんですが、基本は「楽しそうだからやる」「誘われたからやる」というスタンス。誘われるってスゴイことだと思いますから、断ったらもったいない。「頼まれごとは試されごと」と言いますしね。そして忙しくても「コレはやるけど、コレはやらない」という取捨選択も極力やらないです。会社ならばそういう選択をすべきなんでしょうが、ダンス部は教育現場ですからね。
#3 ゼロからイチへ
ゼロをイチにする作業が生徒たちにとって最も重要
ダンス部は歴史が浅いだけに「こうすれば良い」というようなメソッドが確立されていない。言ってしまえば、部の運営も練習も、すべてゼロからの始まり。そしてダンスの作品作りにおいても「ゼロからイチ」への作業が非常に難しく、最大の面白さでもあるのだ。
桜井先生:幕張総合はコーチをつけません。創る部分を生徒が受け持つ。ゼロをイチにする作業が、生徒たちにとって最も重要だと思うのです。
神田橋先生:部員数も増えてきたせいもあって、ウチにはマネージャーや広報、映像担当など細かい役割を作るようになりました。SNSも頑張っていて、アナリティクスで分析して「この動画でこのぐらいフォロワー増えました!」みたいな新しいこともやってますね。
矢下先生:究極的には、機械やAIにできないことを人間がやっていかないと、と考えています。機械が勝てる方法を計算してプログラミングしたようなショーではない、意外性や創造性に富んだダンスを、生徒には作っていってほしいなと思いますね。
緒方先生:一つ一つのステップや技ができるようになると単純に嬉しいものです。それが常に味わえることがまずダンスの魅力だと思います。なりたい自分がイメージしやすいからこそ、休みでも練習をしたがる。例えば、他競技では部活が休みになると「嬉しい」という生徒が多い気がしますが、ダンス部では、休みに自身がやりたい練習ができるから「嬉しい」と言っているように感じます。また、作品創りを自分たちで行なうことで、いくら時間があっても足りない状況ができています。「ない」ところから「ある」を作る過程は苦しいものですが、それができた時の達成感は何物にも代えがたいものです。
>>後編へつづく
「#4 努力・成長・協力〜伸びる生徒は、素直で理解力に長けている」
「#5 アクティブラーニング?〜ダンス部の活動は能動的学習の実践」
「#6 ダンス部ならでは〜新体制と芸術性、カラダとアタマ」
「#7 ダンスで未来を切り開く〜ダンスは心にエネルギーを与えるもの」
【評論】ダンス部の教育的効果〜DANCEで創る未来を生きるチカラ(後編)
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