【評論】ダンス部の教育的効果〜DANCEで創る未来を生きるチカラ(後編)
ダンス部の教育的効果〜
DANCEで創る未来を生きるチカラ(後編)
「ダンスで若者が成長している」
「ダンス部の高校生たちは入部当初から見違えるほど成長する」
「元ダンス部の卒業生たちが、その経験をきっかけに自分の進路を切り開いている」
ー 筆者が強豪校に取材に行くたび顧問の先生から聞く言葉だ。
ダンス部の活動には、若者の人格形成に大きな影響がある。
そして、新しい教育の可能性が潜んでいる。
今回は、強豪ダンス部を育てた5人の顧問の先生の意見と経験を
いくつかの観点で聞きながら、ダンス部と教育の接点を探っていこう。
6人の強豪ダンス部顧問に訊く“生きた”DANCE×教育論
青木 郁美 先生(樟蔭高校ダンス部顧問)
緒方 浩 先生(北九州市立高校ダンス部顧問)
神田橋 純 先生(三重高校ダンス部顧問)
桜井 里枝子 先生(元・千葉県立幕張総合高校顧問)
八木 克容 先生(大阪府立久米田高校ダンス部顧問)
矢下 修平 先生(京都文教高校ダンス部顧問)
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#4 努力・成長・協力
伸びる生徒は、素直で理解力に長けている
2017年、筆者が大阪府立久米田高校を訪れた際の講習に聞き入る部員。彼女たちの真剣さ・純粋さ・集中力は、ダンス部でこそ培われたものだ。この経験を、きっと次のステージで活かしているに違いない。
ダンスとは表現でありコミュニケーション。だから、ダンススキルを向上させていく過程や部活動の中では、他の能力も知らずとシンクロしていくのだ。
緒方先生:ダンス部の魅力とは、本気になれること。同じ目標を仲間と共有し、無限に努力を続けられること。音楽に乗り自身を開放できること。他者との「関わり」の中で、自身の意見を主張したり、他者の意見を尊重したりすることができることです。
青木先生:ダンスをしっかりやると「伝える能力」が成長するでしょうね。私自身も、体操競技からダンスへ転向したのですが、その過程で表現する能力が自然と身について、人としゃべることや関わることが好きになりました。ダンスをやることによって、コミュニケーション能力が伸びるのは間違いないと思います。あと「このコ伸びるな」と思うコは、何かにこだわりを持っているコです。完璧主義者というか、自分がこうでありたいということを突き詰めていくコは絶対に伸びます。そして言われたことを理解する能力、その意味を考えながらやれる能力、さらには状況を察知して先に動ける能力に長けていますね。逆に、伸びない子は「雑」です。それはダンスだけじゃなくて、普段の挨拶にも掃除にも表れると思います。
八木先生:小さなイベントの打ち合わせでも必ず生徒を同席させて、私ではなく生徒の口からみんなに伝えるようにさせます。現場の下見などに同席させると、普段は自信のない子が堂々とその情報を皆に伝えるようになる。その経験で生徒はすごく成長します。
桜井先生:顧問に就いて間もなく部員150名の大所帯になりましたが、常に部員一人一人を大事にする部活でありたいと思っていました。部を一つの船と考えて、部員全員がクルーとして船を漕ぐ意識です。そして初心者のエネルギーは部全体のエネルギーになるので、先輩や経験者はしっかり見てあげること。なるべく個性を大事にし、なるべく多くの生徒にリーダーを経験させることなどを大事にしました。ダンスリーダーだけでなく、運営の責任者、イベントや自主公演の各係(音響、照明、演出、その他)などなどがそれにあたりますね。
#5 アクティブラーニング?
ダンス部の活動は能動的学習の実践
三重高校OBである神田橋先生は、グイグイと生徒たちの中に入り、一緒に踊り、一緒に楽しむ。ダンス部出身の若い先生が顧問になり、新しい活動を展開していくことが、ダンス部の教育的可能性を広げることにも繋がっている。
教育界で導入が促進されているアクティブラーニングだが、その授業では課題も多いようだ。ダンス部では、まさにその実践があると先生方は語る。
矢下先生:アクティブラーニングとは「主体的・対話的・深い学び」なのですが、ダンス部の活動と通じるものはありますね。記録を争う競技では、それを縮める目的に向かうわけですが、ダンスの場合は自分の強みに特化して、弱いところを隠すことができる。勝つために工夫の余地がたくさんあって、それがまず主体的だなと思います。「こうしなさい」という教えが誰にとっても確実なわけではなく、どうすれば自分が伸びるかということから自分で考えなくてはいけない。たとえば「大会で勝つ」という目的に対しての方法は多様ですが、自分たちにとって一番合理で効果的なやり方を選択しなくてはいけない。これって、今の大学受験や会社の中でも一番求められている能力だと思うんです。簡単に言うと「非認知能力=数値化できない能力」を育むことができるんです。ダンス部では、それをチームで話し合いながら突き詰めていくことができますね。
桜井先生:今の教育は、インプットとアウトプットの比重で考えると、インプットのウェイトが強めでした。個人的には、アウトプットをもっと重要視すべきだと思うのです。ダンス部の活動は「机上の勉強を生き物にする」という意味で、教育効果は大きいと思います。
八木先生:アクティブラーニングの授業で話し合われているその問題は、生徒にとってあまり切実ではないんですね。その時間が終われば忘れてしまうような、いわば机上の空論になってしまうことがある。でもダンス部にとっての問題、例えば大会で勝つとかイベントを成功させるというのは、部員にとってとても切実な問題です。それこそ一日中考えていると思います。問題解決学習においての問題が日々溢れている活動です。だからこそ、皆で真剣に話し合って、皆で積極的に考える。そこで身に付く力はまさにアクティブラーニングだと思います。その考え方や手法は授業で習い、その実践をできる場がダンス部なんじゃないでしょうか。
神田橋先生:ダンス部での話し合いを見ていると、生徒がマインドマップを描きながらやっていたりして関心します。ITツールもしっかり使いこなすし、アクティブラーニングの授業で習っていることをしっかり役立てているんですね。