ダンス新時代 〜職業「プロダンサー」として生きる〜 KADOKAWA DREAMS「KEITA TANAKA」
ディレクターだからこその苦悩などはありましたか?
ディレクターを辞めたいと思ったことはないですね。天職すぎると思っています。座って指示出して終わり。こんなに楽なポジションでいいのかと思っています(笑)。
選手との信頼関係があるため、自分が強い言い方をしてもしっかり聞いてくれるし、彼らはそれを越えてくるという信頼感があります。ハードルをいくら上げてもいくらでも越える打たれ強さ、底知れぬ才能や感性、いつも驚かされています。
D.LEAGUEの過去シーズンで一番記憶に残っている作品や、その時の想いを教えてください
21−22シーズンのSYMBOLという作品です。チャンピオンシップに行けないことが決定したラウンドでした。D .LEAGUEで勝つためには半ば強制的にファンを増やしオーディエンス票を獲得しなければならない。そして僕らほどそのシステムに立ち向かったチームはいないと思っています。
メンバーに言い続けていました。世の中は不平等にできてる。D.LEAGUEのシステムを見てみろ、どんなにダンスがうまくてもオーディエンスでひっくり返される。それを作った大人たちがいて、それでお金が回っている。こんな不平等な世の中はない。これは真理だと思うんです。でもその真理の裏には、ファンを獲得していく次世代のダンサー達を見据えての設計が隠れています。選手たちはすぐには理解できないんです。だからその不平等さを力に変えないといけない。
D.LEAGUEのシーズン中は、午前10時からリハーサルが始まり夜10時までぶっ通しです。そんな中、睡眠時間を削り、まだ寒い時期の朝8時にみんなで駅に立って、ビラを配ってまわりました。僕たちD.LEAGUEに参加しているKADOKAWA DREAMSという者です。川崎を拠点に活動しているチームです。見てもらったら絶対いいと思えるパフォーマンスを見せますので、ぜひ一票お願いします、と。選挙活動ですよ。
今までダンサーはファンを作ってこなかった。生徒は多いほうがいいという認識はあっても、自分のファンを集めてベースを作ろうというダンサーの動きはほんの一部でしかありませんでした。ほとんどの場合は、ファンクラブを作ろうとはしなかったし、逆にお前らアイドルかよ、と言われてきました。しかしこれからはベースを作らないとビジネスにならない、そうした戦略として導入されたのがオーディエンス票というシステムなんです。
作品も最後の大逆転を起こしたい、最後の最後まで考えに考え抜いて作りました。ケリーさんの勝ち名乗りの声と同じようなセリフをメンバーに録音させて声にエフェクトをかけ、優勝した夢をみるシーンから、逆再生しダンスが始まる。踊り続けているうちに本当に1位を取るんだってマインドになり、一致団結していきました。
そうして向かったROUND.12。当時のD.LEAGUEはランキング形式で、ジャッジからは一番の点数をいただき、大逆転のチャンスがあった。そんなドラマティックな展開あります?ないですよね。ありがたいことにオーディエンス票もいつもよりいただけたんですが、点数を伸ばせず、結局はチャンピオンシップに進めませんでした。
大人が作ったヒエラルキーで苦しむ若者の姿をまざまざと見せつけられましたね。ただし、同時にそこに立ち向かうファイトも芽生えたシーズンだったと思います。
今シーズンDリーグ史上初の2連覇を目指していると思いますが、ディレクターとして戦略や目標などがあれば教えてください。
作戦で言うと、毎試合毎試合いろんなお手本を参考にして、1シーズンを通して残したい結果や戦略を考えてきました。ビジネスの世界でよく応用されるような世界中の戦争の歴史や名指揮官の戦術、中国の歴史など、どんな闘い方があるのかというのはあらかたインプットしました。
2〜3ラウンド先まで見据えたラウンドごとの”戦術”、シーズンを通しての”戦略”、5年くらい先を、大きなタームを見据えての”大戦略”と分けて考えてみるんですが、ラウンド単位の作戦はわからないんですよ。相手が何を出してくるか、ジャッジが何を評価するか。
ゴールで点数が入るようなシンプルなルールでもないし、評価されるにはジャッジに届かなければならない。僕らができることは何なのかは、最後まで分析します。その人がどんなフィーリングを持っている人なのか、僕らにどんな感情を持っているかなどですね。
例えばあるジャッジが好きなことに合わせることもあれば、そのジャッジが2度目の時はあえて真逆のアプローチをしたり。その人が嫌がるだろうなということも、進化させると感動に達するんです。そんな心理的なことも踏まえてやる事もあります。
当たるか当たらないかはわかりません。なので僕らは基本的にはスウィープ勝ちかスウィープ負けかどっちかだろう、と振り切った感じでやり切るというのが戦術ですね。
そして中期的な視点では、優勝を目指すのはもちろん、優勝したことによって何が手に入るか、これだけ大きなものを動かして、僕らがどうなれるかが重要なんですね。
優勝賞金の3000万円を投資して、僕らがどれだけ跳ねることができるか。選手に還元するのも大事だけれど、昨シーズンは世界に連れて行く資金にもしました。世界で結果を残してD.LEAGUEに戻ってくる、これまでが中期的な戦略でした。D.LEAGUEのバリューを高めよう。チャンピオンになればここまでできるんだ、と子供達に夢を与えよう、テレビの露出のバリューを変えるというのが戦略でしたね。
今年はKDが負けて欲しいというのが世の中の流れだと思っています。僕がファンだったら、まず、CyberAgent Legit に負けて欲しい。DYM MESSENGERSやLIFULL ALT-RHYTHMにも倒されて欲しい。
色んな期待を背負っていることがエンターテイメントだと僕らは理解しています。賛否を乗り越えて、D.LEAGUEを面白くするためには悪者が必要なので、悪者になります。どうぞ好きにコメントしてください。
僕たちは現行の視座で評価できないものを作っています。5年先のために作品を作っています。5年後にぜひ振り返ってほしいですね。その時に流行っている(ダンスの)ど真ん中をやっていると思いますから。
これから挑戦したいことがあれば教えてください。
僕らが今進めたいのはアジア圏への進出です。日本よりも急成長している国の資本を集める、ダンスで経済を回すってことですよね。その1番がD.LEAGUEでありたいですよね。そのためには各国の選手を流入させなければならないし、その地盤を作る必要があります。各地でセレクションを行い、その地域の人がD.LEAGUEでの活躍を応援できる母体を作るために今動いている感じです。
それには皆さんの協力が必要で、僕らだけでは難しいです。行政とカンタローさんをはじめ、色んな方に協力をいただいて。国が違えば文化もお金も違う。それをパスしながらやっていくのはなかなか大変です。
今年チャンピオンにならないとそれも叶いません。プロのダンスリーグがあるのは日本だけです。次の世代の子供達が、ベトナムの子たち、タイの子達、フィリピンの子達、素晴らしいダンサーがたくさんいる。D .LEAGUEが彼らの受け皿にならないといけない。僕らは今年のためにチャンピオンになるんじゃないんです。
そのためにも、選手達の年俸を1000万円に乗せないといけない。僕らはどんどん1000万に乗ります。それはまだ初歩段階です。2000万、3000万と稼いで、羨望の眼差しで見て欲しい。そこから1億円稼げるために、もっと頑張らないといけないですね。
KADOKAWA DREAMSだけじゃなく、D.LEAGUEごと巻き込んで、ディレクターの皆さんが同じモチベーションになればすごい強いと思います。それぞれ考え方もあるので今すぐには団結できませんが、いつかそうなったら理想ですよね。
KEITA TANAKAさんにとって“KADOKAWA DREAMS”とは何ですか?
僕が引退する前の最後の仕事だと思っています。これだけやって引退したいですね。引退後はD.LEAGUEの株を買ってFIREして、農業をしながら全国で講演して回るのもいいですね(笑)。
最後の仕事の一つとして成し遂げたいことがあるんです。ブラックライブズマターをはじめ、偏見や差別にまつわることに取り組みたいんです。(ダンス業界が)大きくなればなるほど(ブラックカルチャーとの関係は)問題として出てきます。特にビジュアル的なことで言われることが多いのですが、ダンサーはヴィジュアルが主体です。髪色やドレッド、肌を黒くしている、シグネチャーなど、切り離せないことです。
僕らが色濃く影響を受けたHIPHOP、ブラックカルチャー。その恩恵を目に見える形でカルチャーに還元してこなかったというのも(偏見の原因として)あると思うんです。個人として還元していくのは難しかった。でもチームを母体として収益をあげ、その一部を永続的にカルチャーに還元する。もしくは次の世代に還元する。そんなエコシステムを作りたいんです。
具体的にいうと、僕らの楽曲の著作権。僕らが生きているうちは半永久的に分配されるもので、その一部を然るところに分配できたなら、僕らが踊ること、収益を上げることで、カルチャーや次の世代にサポートができることになっていくんです。それが成熟したカルチャーのあるべき姿かなと思っています。意見は真摯に受け止めるし、差別的なことを言われても、僕らなりにアクションはしています、カルチャーに還元していますと。手放しでブラックカルチャーを盗んでいるわけじゃないとアピールできるようにするのが、次のページにいる僕らの責任かなと思いますし、D.LEAGUEとともに成熟した社会にできればと思います。