ダンス部「表現」の時代へ〜帝塚山、樟蔭、日大明誠、関西大倉

帝塚山学院高校
超高校レベルの身体能力と技術で芸術性の高い作品をクリエイトする。2019年の全国制覇以後やや低調だったが、昨年見事に返り咲く。絵画のような配置と彫刻のような立体感で創られたステージから、踊り手のパッションが迫ってくる。(2022年DCC決勝より)
>>YouTube動画「帝塚山学院の練習



頭や言葉で理解しようとする「芸術」ではなく、心と熱気で感じる「芸術」。帝塚山学院が2019年にダンススタジアムで優勝して以降、高校ダンス部の大会では、はっきりと「芸術性」が評価されるようになり、そこを追い求めるダンス部が増えていったように思う。そう、一部メディアでは「表現系」と呼ばれる、そんなダンス部が目立ち始めてきたのだ。

ストリートダンスが楽しさや喜び、怒りなどのわかりやすい感情の類を表現しやすいのに比べて、「表現系」のダンス部には、暗くて重くて不明瞭な作風が多い。だからこそ大会では印象に残る反面、一見ネガティブなイメージが大衆に受け入れられない面もある。ただ、コロナ以降の音楽や映画などには、そんな作風が全世界的に広がっているのだという。一概に「暗い」に収めるのではなく、シリアスでリアルでチャレンジング、より本質的な表現であると捉えられているのだ。

わかりやすい例として、バブリーダンスを始めとするエンタメ/コミカル作品で有名な大阪府立登美丘高校が、2021年に披露したのは非常にダークで抽象的な作品であった。振付師が新しい世代に変わったこともあるが、しっかりと時代の空気を受け止めつつ、それまでとは全く逆方向に振り切った勇気あるチャレンジだったように思う。

その「表現系」では、先の帝塚山学院だけでなく、創作ダンス出身の福岡大若葉樟蔭高校なども、高い技術の上に高い芸術性を乗せてくる強豪校だ。また、同じく創作ダンスの光ヶ丘女子新潟清心女子の表現力の高さやその意外性にも驚かされる。



樟蔭高校
創作ダンスとストリートの融合を早くから取り組んできた。民族的なものからシュール、ダーク、エンタメまで作品は年ごとに多彩。同校の中学もそうだが、10代の女性が持つ神秘的なエネルギーを作品に昇華させている。(2021年DCC決勝より)
>>YouTube動画「樟蔭高校の練習


息吹いてきた若いチカラ

そして、昨年のダンススタジアム・ビッグクラス初出場で準優勝を勝ち取った、関西大倉高校は昨今では一番のサプライズな「表現」であった。全身タイツに身を包み、ほとんど無音に近い空間の中で、独特の振り付けやフォーメーションが積み重ねられる。まるで定型を否定するようなシュールな動きと表情が、淡々としながらも熱を帯びていくと、「なんだ、コレは?」と観客はハテナマークを浮かべながらも引き込まれていく。押すだけではなく、引いてみる。埋めるのではなく、余白で匂わす。全部クリアにせずに、謎を残す。優れた芸術にある「問いかけ」が深く心に刻まれる作品であった。
聞けば関西大倉高校の顧問は、帝塚山学院ダンス部出身で、大学を卒業したばかりの23歳の新人教師だという。名門校で経験を詰み、国立大学で舞踊を研鑽し、新しい感覚で、新しい表現を生み出す。若いチカラは、高校ダンスにも確実に影響しているのだ。

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